がん保険の保険料を支払っている人は「生命保険料控除」を申請すると、所得税や住民税の負担を軽減することが可能です。

会社員や公務員などが生命保険料控除を受けるためには、原則として年末調整での手続きが必要です。申請に必要な書類をそろえ、勤務先が指定する方法で期間内に手続きを済ませる必要があります。

本記事では、生命保険料控除の制度内容や年末調整での申請方法などをわかりやすく解説します。

がん保険の加入者は年末調整で「生命保険料控除」が受けられる

年末調整とは、給与や賞与から天引きされた所得税の過不足を調整・精算する手続きのことです。

給与・賞与から天引きされる所得税の額はおおまかに計算されたものであるため、実際の納税額と同じであるとは限りません。そこで、1年間で支給された給与の額が確定する12月ごろに、天引き額と実際の税額を調整するために年末調整が行われます。

過不足があった場合は、12月に支給される給与で精算されるのが一般的です。

年末調整で生命保険料控除を申請すると、一定金額がその年の所得から差し引かれます。税率をかける前の所得が少なくなることで、所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります。

がん保険に加入して保険料を支払っているのであれば、年末調整で忘れずに生命保険料控除を申請しましょう。まずは、がん保険の加入者が押さえておきたい生命保険料控除の制度内容をご紹介します。

生命保険料控除の区分

生命保険料控除には「新制度」と「旧制度」があります。どちらに該当するかは、以下の通り生命保険を契約した時期で決まります。

  • 新制度:2012年(平成24年)1月1日以降に結んだ契約
  • 旧制度:2011年(平成23年)12月31日以前に結んだ契約

新制度の生命保険料控除には「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3種類があります。それぞれの区分に該当する保険料は、以下の通りです。

がん保険に加入したタイミングが2012年1月1日以降であれば、一般的には介護医療保険料控除の対象となります。

一方、旧制度の控除枠は「一般生命保険料控除」と「個人年金保険料控除」の2種類のみです。旧制度では、医療保険やがん保険なども一般生命保険料控除に該当します。

控除額はいくら?新・旧制度の計算方法

生命保険料控除では、税額を計算するときに所得から控除される金額は、各区分にあてまはる生命保険の「年間の支払保険料」に応じて決まります。

年間の支払保険料は、実際に1年間で支払った保険料から、同じ年に受けた剰余金や割戻金を差し引いた残りの金額です。

また、控除額の計算方法は「新制度と旧制度」「所得税と住民税」で異なります。新制度における控除額の計算方法は、次の通りです。

〇所得税の控除額(新制度)

〇住民税の控除額(新制度)

がん保険の保険料を支払っている場合、所得税の計算時は最大40,000円、住民税は最大28,000円が所得から控除されます。ただし、がん保険だけでなく医療保険や介護保険などの保険料も合計して控除額が求められる点には注意が必要です。

がん保険の他に、新制度の対象となる生命保険や個人年金保険に加入している場合は、3区分合計で所得税120,000円、住民税70,000円まで控除されます。

続いて、旧制度の計算方法をみていきましょう。

〇所得税の控除額(旧制度)

〇住民税の控除額(旧制度)

2011年12月31日以前にがん保険に加入したのであれば、所得税の計算時は最大50,000円、住民税は最大35,000円が所得から控除されます。

旧制度は2区分であるため、控除額の上限は所得税100,000円、住民税70,000円です。

年末調整でがん保険の生命保険料控除を手続きする方法

年末調整で生命保険料控除を申請するためには、所定の期限内に必要書類をそろえて勤務先に提出します。ここでは、申請方法や必要書類をご紹介します。

年末調整で手続きをする際の必要書類

年末調整で生命保険料控除を申告するための主な書類は、以下の通りです。

  • 給与所得者の保険料控除申告書
  • 保険料控除証明書

給与所得者の保険料控除申告書は、契約先の保険会社名や保険の種類、契約者名、控除額などを記載する書類です。勤務先や国税庁のホームページで入手できます。

保険料控除証明書は、がん保険を契約している生命保険会社や損害保険会社から送られてくる書類です。送付されるタイミングは保険会社によって異なりますが、毎年10月ごろが一般的です。

原則としては、給与所得者の保険料控除申告書に必要事項を記入し、保険料控除証明書の原本を添付し、年末調整の期間内に勤務先の担当部署に提出します。

年末調整で提出する書類の書き方

給与所得者の保険料控除申告書を手書きで作成する場合、どのように記入すれば良いのでしょうか。国税庁の記入例をもとに、申告書の書き方をご紹介します。

以下は、令和5年分の給与所得者の保険料控除申告書です。

国税庁「各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)」の画像

※画像引用:国税庁「各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)

上記記載例1の部分には、氏名や住所などを記入します。

2の箇所には、保険料控除証明書を参考に、保険会社名や保険の種類、契約者・受取人の氏名、保険料などを記入します。新制度のがん保険については、介護医療保険料の欄に記載をしましょう。

保険料控除証明書の様式は、保険会社によって異なります。控除証明書の記載内容で不明な点があるときは、契約先の保険会社に確認しましょう。

生命保険料控除の対象となる契約内容を記載したあとは、申告書の下段に新制度・旧制度それぞれの合計保険料や控除額を記載します。保険料控除申告書の記載内容にしたがって、記入をすすめていきましょう。

勤務先が年末調整の手続きを電子化している場合

勤務先によっては、年末調整の手続きを電子化している場合があります。年末調整が電子化されており、国税庁の「年調ソフト(年末調整控除申告書作成用ソフト)」を用いて申請する場合、申請手順は以下の通りです。

  1. 保険料控除証明書の電子データを取得
  2. PC・スマートフォンの公式アプリストアや国税庁のホームページから「年末調ソフト」をダウンロード
  3. 年調ソフトに氏名や住所、家族の生年月日などを入力
  4. 保険料控除証明書の電子データを年調ソフトにインポート
  5. 勤務先に送信

保険料控除証明書の電子データは、マイナポータル(政府が運営するオンラインサービス)または保険会社のウェブサイトから取得が可能です。電子データの取得方法や取得の可否は、保険会社によって異なります。

保険料控除証明書の電子データを年調ソフトにインポートすると、契約先の保険会社名や契約者名、控除額などが自動で反映されます。

手続きが電子化されているのであれば、給与所得者の保険料控除申告書を記載する必要はありません。申告書の書き方で悩んだり、控除額の計算を誤ったりする心配はないでしょう。保険料控除証明書の原本の提出も不要です。

また、勤務先が指定するソフトを用いて年末調整をするケースもあります。生命保険料控除をスムーズに申請するためには、年末調整の方法を事前に確認しておくと良いでしょう。

ほかにも年末調整で控除できる保険についてこちらで解説しています。

年末調整でがん保険の保険料控除を申告する際に知っておきたいこと

がん保険の生命保険料控除を申告する際には、以下の点を押さえておきましょう。

生命保険料控除の申告ポイント
  • 要件を満たしていなければ控除を受けられない
  • 年末調整の期間や手続き方法は企業によって異なる
  • 年の途中でがん保険を解約しても控除を申請できる

1つずつ解説します。

要件を満たしていなければ控除を受けられない

生命保険料控除は、保険金・給付金の受取人が「契約者本人」「配偶者」「その他の親族(6親等以内の血族・3親等以内の姻族)」である契約が対象です。この要件に該当していなければ、控除は受けられません。

※血族は自分自身と血のつながりがある人、姻族は配偶者と血縁関係にある人

また、外国の保険会社と日本国外でがん保険を契約している場合、保険料を支払っていたとしても生命保険料控除は受けられません。

年末調整の期間や手続き方法は企業によって異なる

年末調整は、毎年11月に行われるのが一般的ですが、実際の期間は勤務先によって異なります。

また、年末調整の方法も勤務先ごとに異なっており、紙の書類を記載するケースもあれば、指定のシステムに入力をするケースもあります。

年末調整で生命保険料控除の手続きをし損ねた場合、自分自身で確定申告をしなければなりません。業務をこなしながら年末調整の手続きをスムーズに終わらせるためには、実施期間や申請方法を確認しておくことが大切です。

年の途中でがん保険を解約しても控除を申請できる

年の途中でがん保険を解約しても、要件を満たしているのであれば、その年に支払った保険料は生命保険料控除の対象となります。

例えば、1〜10月までがん保険の保険料を支払っていたのであれば、10か月間分の保険料は生命保険料控除の対象になります。解約時に解約返戻金を受け取ったとしても、控除額を計算する際に年間の保険料を差し引く必要はありません。

控除の対象になるがん保険を契約していたのであれば、年末調整で忘れずに申請をしましょう。

ただし、保険会社が保険料控除証明書を発送したあとにがん保険を解約すると、控除証明書の再発行が必要となる場合があります。控除証明書に記載された保険料と控除の対象になる保険料が異なると、申請に利用できない勤務先もあるためです。

また、保険料控除証明書をそのまま使用できる場合は、生命保険料控除の対象となる保険料を、自分自身で計算することになります。

まとめ

がん保険の保険料を支払っている人は、年末調整で生命保険料控除を忘れずに申請しましょう。1年間で支払った保険料に応じた一定金額が所得から差し引かれるため、所得税や住民税の負担を軽減することが可能です。

生命保険料控除を申請するときは、保険料控除証明書が必要です。保険会社から送られてきた保険料控除証明書は、年末調整が始まるまで大切に保管しておきましょう。

また、年末調整の期間や申請方法は勤務先によって異なります。スムーズに申請を済ませるためにも、年末調整の期間や申請方法は事前に確認しておくことをおすすめします。

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監修者プロフィール

宮里 恵
(M・Mプランニング)

保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

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