税金の支払いを少しでも抑えたいと考えて、節税を検討している個人事業主の人は多いのではないでしょうか。

確定申告の方法や計上できる経費のルールを知ることで、個人事業主に課せられる税金の負担を抑えられる可能性があります。

また、生命保険や老後の年金を自分自身で準備できる制度などに加入することで、税負担を軽減できることもあるのです。

本記事では、個人事業主が節税する方法や支払う税金の種類などをわかりやすく解説します。

個人事業主が支払う税金は主に4種類

節税する方法を知る前に、個人事業主が納める主な税金の種類を確認しておきましょう。具体的には以下の通りです。

  • 所得税・復興特別所得税
  • 住民税
  • 個人事業税
  • 消費税

所得税および復興特別所得税

所得税は、年間の所得に対して課せられる税金です。事業所得がある自営業やフリーランスは、原則として確定申告をして所得税を納める必要があります。所得税の税率は、5〜45%です。また、2037年(令和19年)までは所得税と合わせて復興特別所得税も納めなければなりません。

確定申告の期間は、原則として例年2月16日〜3月15日です。期間内に、所得税の申告と納税まで済ませる必要があります。

住民税

住民税は、お住まいの自治体(都道府県・市町村)に対して納める税金です。所得税が国に納める税金であるのに対し、住民税は地方税である点が異なります。

住民税の税額は、基本的に前年度の所得に一定の税率をかけて計算する「所得割」と、所得にかかわらず定額である「均等割」の合計値で決まります。所得割を計算する際の税率は、原則として10%です。

※住民税の計算方法や税率は自治体によって異なります。

個人事業税

個人事業税は、一定以上の事業所得がある人に課せられる税金です。住民税と同じく地方税に分類されます。

個人事業税が課せられるのは、法律で定められた70業種に該当する事業を営んでいる個人事業主です。法定業種は、第1〜第3種業種に分かれており、それぞれの区分ごとに税率が決められています。

法定業種に該当しない自営業やフリーランスに個人事業税は課せられません。例えばライターやプログラマーなどは、個人事業税の課税対象外です。

消費税

消費税とは、商品の販売やサービスの提供などに対して課税される税金です。消費税を負担するのは消費者ですが、納税するのは事業者となります。消費税を納める義務がある「課税事業者」となるのは、以下どちらかの条件を満たすときです。

  • 前々年の課税売上高が1,000万円超である
  • 前年の1〜6月における課税売上高が1,000万円超である

上記のどちらにも当てはまらない場合は「免税事業者」となります。免税事業者となった個人事業主は、販売する商品を購入したり提供するサービスを利用したりした人から消費税を受け取っても、国に納さめる必要はありません。

消費税の納税期限は、個人事業主の場合翌年3月31日までとなります。

個人事業主の節税方法

個人事業主が納める税金のうち、所得税や住民税、個人事業税は、事業で得た所得が多いほど税額も増えていきます。また所得税については、所得が一定金額を超えた部分について、税率が段階的に上昇していきます。

所得は、収入から必要経費を差し引いた金額です。所得には、個人事業主が得る「事業所得」のほかにも、会社員や公務員などが得る「給与所得」や、投資用の不動産から家賃収入を得たときの「不動産所得」など種類はさまざまです。

所得税を計算する際は、1年間で得た所得の合計金額から所得控除を差し引いた「課税所得」に、所定の税率をかけて計算します。所得控除には、合計所得金額が2,500万円以下の人が受けられる「基礎控除」や、養っている配偶者がいる人の「配偶者控除」などがあります。

節税をするためには、課税所得の金額を低く抑えることが大切です。個人事業主が課税所得を抑える方法は、大きく分けて以下の3点です。

  • 青色申告をする
  • 経費を漏れなく計上する
  • 所得控除・税額控除を活用する

1.青色申告をする

確定申告には「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。このうち節税に有効なのは、さまざまな税制メリットがある青色申告です。

青色申告をするためには、事前に申請書の提出が必要です。何も申請をしなかった場合は、白色申告となります。

青色申告の税制メリット

青色申告で受けられる主な税制メリットは、以下の通りです。

  • 最大65万円の青色申告特別控除を受けられる
  • 家族に支払った給与を経費にできる など

青色申告をすると、青色申告特別控除が受けられます。控除額は、10万円、55万円、65万円のいずれかの金額です。白色申告には、特別控除がありません。そのため青色申告をしたほうが、特別控除が適用されることで課税所得の金額が低くなり節税効果が期待できます。

また青色申告では、パソコンをはじめとした仕事に必要な道具の購入金額が10万円未満である場合、購入した年の経費に一括で計上できます。白色申告でも、事業に必要なものであれば経費に計上が可能です。しかし購入価格が10万円以上であれば一括で経費に計上できず「減価償却」をしなければなりません。

減価償却は、時間の経過にともなって失われたと考えられる価値を経費として少しずつ計上する会計処理です。

さらには、自分自身と生計を共にしている配偶者や15歳以上の親族に対して支払った給与を、経費に計上できる点も青色申告のメリットです。

青色申告をする上での注意点

青色申告を選択できるのは、事業所得・不動産所得・山林所得のいずれかがあり、所定の期日までに青色申告承認申請書を提出した個人事業主です。

申請書の提出期限は、確定申告の対象となる年の3月15日です。ただし1月16日以後に新規事業を開始したのであれば、業務開始から2か月以内に青色申告承認申請書を提出することで青色申告を利用できます。

青色申告特別控除について55万円または65万円の控除を受けるためには、日々の取り引きを複式簿記で帳簿に付ける必要があります。また、65万円の控除を受けるためには「e-Taxで電子申告をする」または「仕訳帳や総勘定元帳を電子保存する」のどちらかを満たさなければなりません。

会計ソフトを活用しよう


「簿記の知識がないので複式簿記で帳簿をつけるのは難しい」と考えている人もいるのではないでしょうか。たとえ簿記の知識がなくても、会計ソフトを活用することで青色申告に必要な複式簿記での記帳が可能です。

また会計ソフトであれば、銀行口座やクレジットカードを連携すると勘定項目を予測してくれるため、帳簿付けが楽になるでしょう。さらにソフトによっては、確定申告まで対応しているものもあります。

2.経費を漏れなく計上する

個人事業主は、事業をするために必要であった支出を経費として漏れなく計上することで、余分な税金を支払わずに済みます。

経費に計上できるのは、事業をするために必要であったと認められる支出です。例えば商品を仕入れるための費用や事務所の家賃・水道光熱費、従業員の人件費などは経費となります。

事業に関係ない支出まで経費に計上するのは脱税行為であるため、ルールに則って正しく計上しましょう。

光熱費や家賃は家事按分して経費計上する

自宅の一室で仕事をしているのであれば、家賃や光熱費などの一部を経費に計上できます。また、住宅ローンを組んで購入したマイホームの一室で事業を営んでいる場合、毎月の返済額に占める利息部分を経費に計上が可能です。

経費に計上できる金額は、自宅にある事務所の床面積や使用時間などに応じて計算します。例えば、家賃が15万円であり、事務所として使用している部屋の床面積が全体の30%を占めている場合、経費に計上できる金額は15万円×30%=4.5万円です。

経費に計上する金額の割合は、個人事業主が自由に決められます。ただし、家賃や光熱費のすべてを経費に計上することはできません。

事業に関する税金も経費にできる

個人事業主が支払った税金は「租税公課」として、経費に計上できる場合があります。経費に計上できる税金の例は、以下の通りです。

  • 個人事業税
  • 固定資産税
  • 消費税
  • 自動車税 など

固定資産税や自動車税は、事業をするために必要なものに対して課せられていなければ経費に計上できません。例えば自動車税は、事業で使っていると客観的に認められる車両に課せられているのであれば経費に計上できます。

不動産や車両などをプライベートでも使っている場合は、家事按分をして事業にかかる金額のみを経費に計上する必要があります。

経費に計上できない支出

個人事業主が支払ったもののうち、以下については経費に計上できません。

  • 自分自身に対して支払った給与
  • 公的医療保険や公的年金などの保険料
  • 健康診断・人間ドックの費用
  • 飲食代書籍代交通費などで、仕事に関係ないプライベートな支出
  • 所得税や住民税、相続税、贈与税など個人に対して課せられる税金
  • 住宅ローンの借入元本 など

プライベートでの支出や個人に対して課せられる税金などは、経費として認められないため、誤って計上しないようにしましょう。

なお、公的医療保険や公的年金などの保険料を経費には計上できませんが「社会保険料控除」として支払った金額のすべてを所得から控除できます。

3.税の優遇が受けられる制度・金融商品を活用する

生命保険や個人事業主向けの制度などに加入すると、所得控除が適用されて課税所得を抑えられることがあります。利用できる所得控除を余すことなく活用することで、さらなる節税効果が期待できます。

生命保険や医療保険などに加入する

生命保険や医療保険、個人年金保険などに加入して支払った保険料は「生命保険料控除」の対象となります。生命保険料控除の控除額は、加入している保険の種類や年間で支払った保険料、契約したタイミングなどで決まる仕組みです。

所得から控除される金額は、所得税と住民税で異なります。2012年(平成24年)1月1日以降に契約した場合、控除額の上限は以下の通りです。

  • 所得税の計算時:最大12万円
  • 住民税の計算時:最大7万円

控除額の計算方法は、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

小規模企業共済に加入する

小規模企業共済は、個人事業主や小規模の企業を経営している人などが退職金を積み立てられる制度です。毎月一定の掛金を支払うことで、退職や廃業時に共済金を受け取れます。また、手元の資金が不足したとき、融資が受けられるのも特徴です。

小規模企業共済の掛金は「小規模企業共済等掛金控除」の対象であり、支払った金額のすべてを所得から控除できます。毎月の掛金は1,000〜70,000円までの範囲で設定できるため、控除額は年間で最大84万円(70,000円×12か月)となります。

iDeCo(イデコ)への加入

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、毎月一定額の掛金を支払い、それを投資信託や保険などで運用することで老後資金を準備できる制度です。iDeCoに加入して拠出した掛金は、全額が所得控除の対象です。また運用で得た利益も非課税となります。

個人事業主は、毎月68,000円まで掛金を拠出できるため、控除額は最大81.6万円です。ただし、老後に受給できる年金の上乗せ制度である「国民年金基金」や「国民年金の付加保険料」の掛金を合わせて、毎月68,000円(年間81.6万円)が上限です。

経営セーフティ共済に加入する(中小企業倒産防止共済制度)

経営セーフティ共済は、取引先の事業者が倒産したときに、自社が連鎖して倒産したり経営難になったりするのを防ぐための制度です。取引先が倒産すると、支払った掛金の最高10倍(最大8,000万円)まで、無担保・無保証人で借り入れできます。

経営セーフティ共済に加入して支払った掛金は、必要経費または損金に算入が可能です。掛金は、月額5,000〜20万円の範囲であれば5,000円単位で選べます。

経営セーフティ共済に加入できるのは、継続して1年以上にわたって所定の事業を行っている中小企業または個人事業主です。また「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する従業員数」が要件を満たしていなければなりません。

ふるさと納税を活用する

ふるさと納税は、生まれ故郷や応援をしたい特定の自治体に対して寄附できる制度です。寄附した金額のうち2,000円を超える金額分の減税が受けられます。

例えば、寄付金額が30,000円であれば、所得税と住民税あわせて最大28,000円の税負担を軽減できます。

また、寄附をした自治体の名産品をはじめとしたさまざまな返礼品を受け取れるのもふるさと納税の特徴です。ただし控除の対象となる納税額には、総所得金額等の所得税は40%、住民税は30%が上限であり、超過した金額については控除の対象とならない点に注意しましょう。

法人化を検討するのも方法

個人と法人では、課せられる税金の種類や税率が異なるため、法人化することで税負担を軽減できる場合があります。

個人の所得に課せられる所得税の最高税率は、課税される所得金額4,000万円以上の部分に適用される45%です。一方で法人の所得に課せられる法人税の最高税率は、資本金が1億円以下である場合、年800万円超の部分に適用される23.2%です。

法人税の最高税率は個人の所得税よりも低いため、事業の所得金額が大きいと法人化したほうが税金の負担を抑えられる可能性があります。ただし法人化するためには、登記や定款作成などに費用や手間がかかります。また社会保険料の計算方法も異なるため、法人化が必ずしも有利とは限りません。

法人化を検討しているのであれば、税理士をはじめとした専門家に相談し、メリットがあるのか確認することが大切です。

まとめ

個人事業主に課せられる主な税金は「所得税」「住民税」「個人事業税」「消費税」です。このうち所得税と住民税については、青色申告の利用や所得控除などの活用で課税所得を低く抑えることで、税負担を軽減できる可能性があります。

また、事業を営むうえで必要であった経費を正しく計上することで、余分な税金を支払わずに済みます。事業とは関係のない支出まで経費に計上すると脱税となってしまうため、ルールに則って正しく計上することが大切です。

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監修者プロフィール

宮里 恵
(M・Mプランニング)

保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

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