学資保険の受取人とは、積み立ててきた保険料の一部を将来「祝い金」や「満期保険金」といった形で受け取る人を指します。学資保険の場合、両親のどちらかを受取人に設定するのが一般的です。

ただし、学資保険の受取人と契約者との関係によっては、かかる税金の種類が変わってくるため注意が必要です。この記事では、学資保険の受取人を設定する前に知っておきたいポイントから受取人の変更タイミングまで、わかりやすく解説していきます。

学資保険の受取人とは?

教育費の積立てを目的としている学資保険では、将来、契約者が払ってきた保険料の一部を祝い金や満期保険金という形で受け取ります。これらのお金=学資金を受け取る人を「学資保険の受取人」と言い、一般的には、父親か母親のいずれかが受取人になります。

契約者・被保険者・受取人の違い

学資保険の契約では、最初に以下の3者を設定します。

契約者保険契約をかわす人で、保険料の支払い義務がある人(契約に関する決定権を持っているため、被保険者や受取人の指定も行う)
学資保険の場合、契約者になるのは父親か母親が一般的だが、被保険者である子どもから見て3親等以内の親族や、子どもを扶養する人を契約者に指定できる場合もある
被保険者保険の対象になる人で、学資保険の場合は子ども
受取人学資保険の祝い金や満期保険金といった学資金を受け取る人

学資保険の対象である「被保険者」は、原則として子どもです。

保険料を支払う「契約者」や将来の学資金を受け取る「受取人」は、子どもの親であることが一般的です。保険会社によっては、3親等以内の親族であれば契約者と認めるケースもあるため、条件さえそろえば契約者に祖父母を設定し、受取人は両親にすることも可能です。

ただし契約者と受取人が違う契約だと、学資金を受け取る際にかかる税金が変わってきます。場合によっては不利になる可能性があるため、学資保険の契約時には、契約者・受取人の関係に気をつけてください。

学資保険の受取人は誰にすればいい?

結論から言うと、学資保険の受取人設定で税制上有利な方法は「契約者と受取人を同じ人にすること」です。契約者が子どもの父親であれば、受取人も父親にすることをおすすめします。

なぜなら、保険料を払った人(契約者)と受取人が違うと贈与税が発生し、税負担が重くなる可能性があるからです。ここでは契約者と同じ人が有利な理由、学資金の受け取り方によって変わる税金の解説や、「父親か母親どちらを設定する?」という疑問について解説していきます。

税制上有利なのは「契約者と同じ人」

学資保険で祝い金や満期保険金といった学資金を受け取る際、場合によっては税金の支払いが発生します。この税金の負担を抑えたい場合、一番有利なのは契約者と同じ人を受取人に設定する方法です。

なぜなら、契約者と受取人が同じ場合の税金は、後述する契約者と受取人が違う場合の税金(贈与税)よりも負担を軽減しやすいからです。学資金を一括で受け取れば「一時所得」、年金形式で受け取れば「雑所得」の扱いになり、所得税と住民税の対象になります。いずれも、贈与税よりは負担を抑えやすくなっています。

一括で学資金を受け取る場合の税金

契約者・受取人ともに同じ人が学資金を一括で受け取ると、その学資金は「一時所得」扱いになり、所得税・住民税の対象になります。

一時所得の金額は、以下のように計算します。
【総収入金額(受け取った学資金の総額)-収入を得るために支出した金額(学資保険の保険料総額)-特別控除額(最高50万円)=一時所得の金額】

一時所得には50万円の特別控除枠があるため、支払った保険料と受取金額の差額が50万円以内であれば、学資金に課税されることはありません。わかりやすく言うと、「支払った保険料の総額から50万円以上の学資金を受け取らなければ、税金は発生しない」ということです。

たとえば、学資保険に支払った保険料が合計280万円で、大学入学時に一括で受け取った学資金が300万円だったとします。この場合、学資保険の契約で得た利益は20万円、返戻率は約107%です。同じ年に学資保険以外の一時所得がなければ、税金はかかりません。

最近は学資保険の予定利率が下がっている影響で、学資保険の利益が50万円を超えるような契約は少なくなっています。したがって、契約者と受取人が同じ契約で学資金を一括受け取りにすれば、課税される可能性はできる限り抑えられるでしょう。

年金(分割)で学資金を受け取る場合の税金

契約者・受取人が同じ契約でも、学資金を年金のように分割受け取りにすると、課税形式が少し異なります。この場合、分割で受け取った学資金は「雑所得」として扱われ、所得税・住民税の対象になります。

雑所得の計算式は次のとおりです。

その年に受け取った学資金の年金額-必要経費(学資保険の保険料総額÷学資金の総支給見込額×その年に受け取った学資金の年金額)=雑所得

雑所得には、一時所得のような50万円の特別控除枠がありません。

その年に受け取った学資金が受け取り回数に応じて換算した学資保険の保険料よりも多い場合は、課税対象になる可能性があります。

会社員など給与所得者の場合、雑所得は年間20万円まで「確定申告不要」です。そのため、その年の利益が20万円以下であれば所得税が発生することはありません。しかし、自営業者の場合は事業所得とあわせて20万円以下の雑所得もあわせて確定申告する必要があるため注意が必要です。

また、住民税には「確定申告不要」のルールはなく、所得税とは別で申告が必要となります。

雑所得で万が一税金が発生する場合、税率は給与所得や事業所得など他の所得と合算して計算されます。雑所得の計算は複雑でわかりにくいため、不安がある人は税務署に相談したり、年金を一括で受け取ったりして、税金面で負担のない方法を選択しましょう。税金に詳しいファイナンシャル・プランナーに相談するのも1つの方法です。

契約者と受取人が違うと贈与税が発生する

学資保険で契約者と受取人を違う人に設定すると、受け取った学資金に贈与税の対象になります。一般的に贈与税は所得税・住民税よりも負担が重くなることが多いため、受取人を違う人に設定する際は注意が必要です。

たとえば契約者=父親、被保険者=子ども、受取人=母親という形で学資保険の契約をしたとします。この場合、学資金を受け取る際に父親(夫)から母親(妻)への贈与があったとみなされ、贈与税の対象となるのです。

贈与税がかかる部分の金額は、以下のように計算します。
【1月1日~12月31日までに発生した贈与の合計額(その年に受け取った学資金)ー基礎控除額(110万円)】

つまり、年間で受け取る学資金が110万円を超えると、超えた部分に贈与税が発生します。超えた部分の金額が200万円以下であれば、贈与税の税率は10%です。

学資金が所得税・住民税の対象になる場合は、学資保険の保険料を経費という形で一定額差し引けました。一方、贈与税にはそのような制度がありません。1年に110万円以上の受け取りがある学資保険を検討する場合は、「契約者と同じ人を受取人に設定する」ことを検討しましょう。

受取人は父親か母親、どちらにする?

学資保険の受取人は、父親か母親どちらにすればいいのでしょうか。

各家庭の方針によって適した設定は異なりますが、ここでは悩んだときの参考になるポイントとして、以下の3つをご紹介します。

  • 保険料
  • 保険料控除枠の状況
  • 死亡保障として考えたときのリスク度合い

それぞれを詳しく見ていきましょう。

保険料

学資保険の保険料を同じ年齢の男女で比較すると、女性のほうが保険料は安くなる傾向があります。保険料が安ければその分、学資保険の返戻率は高くなります。少しでもお得に学資金を受け取りたい人は、母親を契約者にする考え方もあるでしょう。

女性のほうが保険料が安くなる理由は、平均寿命です。厚生労働省の2021年度調査※によると、日本人女性の平均寿命は87.57歳で、男性は81.47歳となっています。同じ年齢で比較すると、学資保険の払込免除特則に該当する死亡リスクは男性のほうが高いため、保険料も少し高めに設定されているのです。

一方、死亡リスクが高い父親を契約者にしたほうが死亡保障への備えは適切と考えることもできます。他のポイントとあわせて、何を優先するかによって契約者を決めましょう。

※出典:厚生労働省「令和3年簡易生命表の概況」より表2「平均寿命の年次推移」

保険料控除枠の状況

学資保険の契約者となって保険料を支払う人は、生命保険料控除の対象になります。そのため、両親のうちどちらかが生命保険料控除を受けたいかによって、契約者を決めるという方法もあります。

生命保険料控除とは、支払った保険料額に応じて年末調整や確定申告をすれば、所得税・住民税を軽減できる節税制度です。

ただし、生命保険料控除の枠には上限が設けられています。学資保険以外の保険契約があり控除枠を使い切っている人は、新たに学資保険を契約して保険料を払っても、節税額は増えません。

特に、年間の支払保険料が8万円~10万円以上の生命保険に加入している場合は控除枠を使い切っている可能性があります。

心当たりがあり不安な人は、加入中保険の担当者やファイナンシャル・プランナーなどに相談してみましょう。夫婦のうち控除枠が余っている人を契約者・受取人に設定して控除枠を有効活用すれば、世帯全体の節税効果を高められます。

死亡保障として考えたときのリスク度合い

学資保険には契約者に万が一のことがあったときの備えとして、払込免除特則があります。この特則により、親の死亡保障を兼ねて契約する人もいるでしょう。

学資保険を死亡保障として考える場合は、亡くなったときの経済的なリスクが大きいのはどちらかよく考えてみてください。

また、夫婦の死亡保障加入状況はどうなっているのかも確認する必要があります。他のポイントも考慮しながら、世帯内でバランス良く死亡保障を備えるとよいでしょう。

受取人の変更はできるの?

学資保険の受取人は、いつでも変更できます。

「契約者と受取人を別にしてしまった」という人や、離婚・受取人の死亡といった事情が発生した人は、速やかに受取人を変更しましょう。

受取人の変更はいつでも可能

学資保険の契約途中でも、手続きさえすれば受取人は変更できます。

一般的に、受取人の変更は書面での手続きが必要となるため、まずはインターネットや電話を通じて保険会社に連絡し、手続きに必要な書類を取り寄せましょう。

また、保険会社によってはインターネット上で各種手続きができる契約者専用サイトを用意していることがあります。契約者専用サイトの存在確認も含め、まずは保険会社に連絡してみてください。

離婚・受取人の死亡時には変更手続きが必須

離婚したときや当初設定していた受取人が死亡したときなど、世帯の状況が大きく変化した際には必ず保険会社に連絡してください。

手続きをしないまま学資金の受け取り時期が到来すると、正当な受取人がスムーズに受け取れないといったトラブルが発生する可能性もあります。保険会社に連絡して事情を伝え、必要な手続きをすませましょう。

まとめ

学資保険で祝い金、満期保険金といった学資金を受け取る際、受取人には税金がかかる可能性があります。

税制上有利な方法は契約者と同じ人を設定し、学資金は一括で受け取る方法です。契約者と受取人が同じであるほうが管理もしやすいため、できれば揃えておくことをおすすめします。

契約者を父親か母親にするか悩んだ場合は、保険料からみた返戻率のお得度合い、保険料控除の節税効果、世帯内の死亡保障などのポイントをふまえて検討してください。

最近は女性の社会進出により、母親が世帯主となってメインで家計を支えている家庭もあるでしょう。各家庭の状況やリスクをよく考慮したうえで、最適な契約形態を考えることが大切です。

保険コンパスなら、何度でも相談無料です

監修者プロフィール

宮里 恵
(M・Mプランニング)

保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

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