マイホームを購入するために住宅ローンを組む方の多くは、返済途中で万一のことがあったときに備えて「団体信用生命保険」に加入します。

団体信用生命保険に加入した人は、すでに加入している生命保険の保障の見直しが必要になるかもしれません。

本記事では、団体信用生命保険の保障内容や種類、生命保険の見直し方などをわかりやすく解説します。

住宅ローンを組むと「団体信用生命保険」に加入する

団体信用生命保険(以下、団信)とは、住宅ローンを返済する人が亡くなったり、所定の高度障害状態になったりしたときに、ローンの残りを保険金で全額返済してもらえる保険です。

例えば、家族構成が夫と妻(専業主婦)、子供(3歳)である世帯において、夫が住宅ローンを組んでマイホームを購入するとします。

返済途中で夫に万一のことがあると、残された妻と子供はローンの返済が困難になるかもしれません。もし夫が団信に加入していれば、万一のときに保険金でローンが完済されるため、残された妻と子供は返済義務がなくなったマイホームに引き続き住めるでしょう。

なお、団信に加入する際は、被保険者(保険の対象となる人)の健康状態や過去の一定期間内にかかったことがある病気を保険会社に告知して審査を受ける必要があります。

住宅ローンを組む場合、基本的に団信のセット

銀行をはじめとした金融機関で住宅ローンを組むときは、原則として団信への加入が条件となっています。

住宅ローンの返済期間は、一般的に20年や30年などの長期間にわたるため、完済までローンの契約者に何があるかわかりません。そこで返済途中でローンの契約者に万が一のことがあったとき、保険金で融資したお金を回収できるようにするために、多くの金融機関は団信への加入を義務付けているのです。

団信の加入が融資条件である金融機関で住宅ローンを組んだ場合、契約者が支払う団信の保険料が0円になる場合もあります。団信の保険料を負担してくれる金融機関もあるためです。

一方で、金融機関によっては団信への加入が必須でない場合もあります。例えば、金融期間と住宅金融支援機構が共同で提供する「フラット35」は、団信に加入しなくても借り入れが可能です。

団信の種類

団信には、以下のような種類があります。

保障内容・特徴
がん団信死亡・高度障害に加えてがん(悪性新生物)を保障する団信
三大疾病保障付団信死亡・高度障害に加えて三大疾病(がん・心筋梗塞・脳卒中)を保障する団信
八大疾病保障付団信死亡・高度障害に加えて三大疾病(がん・心筋梗塞・脳卒中)と高血圧症・糖尿病・慢性腎不全・肝硬変・慢性膵炎 などを保障する団信
※保障の対象となる疾病が上記と異なる場合があります。
全疾病保障団信死亡・高度障害の保障に加えて、すべての病気やけがで1年以上働けなくなる状態を保障する団信
ワイド団信通常の団信よりも告知項目が少ない団信

三大疾病保障付団信や八大疾病保障付団信などを選んで保障範囲を広げる場合、住宅ローンの金利に0.1〜0.3%程度を上乗せするのが一般的です。

2021年12月現在では、追加の保険料を負担することなく、死亡や高度障害状態以外の保障がある団信を選べるケースも増えてきました。

ワイド団信は、健康状態に不安がある人でも申し込みやすい団信です。すでに病気を患っている人や過去に大病を患った経験がある人など、一般的な団信への加入が難しい場合は、ワイド団信を検討すると良いでしょう。

住宅を購入するときは生命保険を見直そう

マイホームを購入するときに団信に加入したのであれば、契約中の生命保険の保障内容を見直しましょう。ここでは見直しが必要な理由や、見直し方の例などを分かりやすく解説します。

団信に加入すると必要保障額が減る

マイホームの購入時に生命保険の見直しが必要な理由は、団信に加入すると「必要保障額」が減ることがあるためです。

必要保障額とは、生命保険の死亡保険金額を決めるときに目安となる金額のことです。亡くなったあとの残された家族の支出見込額から、収入見込額を差し引いて計算します。支出見込額と収入見込額の内訳は、それぞれ以下の通りです。

〇残された家族の支出見込額と収入見込額

支出見込額収入見込額
・家族の生活費
・子供の教育費
・住居費用
・葬儀費用・お墓代 など
・公的保障:遺族年金・老齢年金
・企業保障:死亡退職金・弔慰金
・自己資産:預貯金・株式・投資信託
・配偶者の就労収入・退職金 など

賃貸住宅に住んでいる場合、亡くなったあとも残された家族は引き続き家賃や共益費などを支払っていかなければなりません。

一方で、持ち家に住み団信に加入した場合、万一のことがあったあとはローンの返済をしなくてもよくなります。そのため、残された家族が支払う住居費用が、賃貸に住んでいたときよりも少なくなることがあるのです。

団信と生命保険で住居費の保障が重複している場合、保険料を余分に支払うことになるでしょう。マイホームを購入したあとに家計を少しでも楽にしたいのであれば、生命保険の死亡保障を見直すことが大切です。

一方で、団信に加入したからといって死亡保障が必ずしも減額できるわけではありません。必要保障額を計算した結果、加入している生命保険の死亡保険金額が不足していたのであれば、保障を増額する必要があるでしょう。

必要保障額の計算方法については「生命保険の必要保障額とは?計算方法や加入後に見直しが必要な理由を解説」もご参考ください。

必要保障額の見直しの例

ここでは、住宅ローンを組んで持ち家を購入した場合に、必要保障額がどのように変化するのか、以下のモデルケースを用いてシミュレーションします。

◯家族構成・生活状況など

  • 夫:40歳・会社員・年収550万円・死亡退職金300万円
  • 妻:38歳・パート勤務・年収100万円(扶養内)
  • 子供:長男8歳・長女6歳
  • 毎月の生活費:26万円
  • 住居費(月額):8万円(賃貸住宅)※共益費込み
  • 自己資産:700万円
  • 子供2人分の教育費:2,100万円

なお、妻は夫が亡くなったあともパート勤務を続けるとします。上記のケースにおける必要保障額は、以下の通りです。

支出見込額金額収入見込額金額
生活費(末子が独立するまで)3,713万円公的保障(遺族年金・老齢年金)7,131万円
生活費(末子の独立後)5,304万円死亡退職金300万円
子供の教育費2,100万円自己資産700万円
住居費用4,896万円妻の就労収入2,300万円
葬儀費用・遺品の整理費用300万円- - 
合計16,313万円合計10,431万円

※妻が女性の平均寿命である88歳まで生きると仮定して生活費や住居費などを計算

必要保障額を計算すると、16,313万円-10,431万円=5,882万円となります。

仮に夫が、分譲マンションを購入するために住宅ローンを組んで団信に加入したとしましょう。マンションの管理費と修繕積立金は合計で月額3万円とし、途中で値上がりはしないものとします。

夫が返済途中で亡くなった場合、団信により住宅ローンは完済され、残された家族は管理費と修繕積立金の支払いのみとなるため、支出見込額は以下の通りに変化します。

支出見込額金額
生活費(末子が独立するまで)3,713万円
生活費(末子の独立後)5,304万円
子供の教育費2,100万円
住居費用1,836万円
葬儀費用・遺品の整理費用300万円
合計13,253万円

そのためマンション購入後の必要保障額は、13,253万円-10,431万円=2,822万円となります。マンション購入前の必要保障額は5,882万円であったため、見直しをすることで生命保険の死亡保険金額を約3,000万円減額して、保険料を安くできる可能性があるのです。

見直し時に検討すると良い生命保険

死亡保障を見直す際は、以下の生命保険を検討すると良いでしょう。

保障内容・特徴
定期保険被保険者が死亡または高度障害状態になったとき、死亡・高度障害保険金が一括で支払われる保険
収入保障保険被保険者が死亡または高度障害状態になったとき、保険金の受取人に対して定額の年金が保険期間の満了まで支払われる保険
逓減定期保険契約から一定の期間が経過するとともに死亡・高度障害保険金額が減少していく保険

上記は、すべて掛け捨て型の生命保険です。家族に未成年の子供がいる場合、数千万円の死亡保障が必要になるケースは少なくありません。掛け捨て型の生命保険は、解約しても戻ってくるお金がほぼない代わりに割安の保険料で手厚い死亡保障を準備できます。

定期保険と逓減定期保険は、保険金が一括で支払われるタイプの保険です。一方で収入保障保険は、保険期間が満了するまで保険金がお給料のように分割で支払われます。

子供の成長とともに独立するまでの生活費や教育費が減るため、死亡保障額は定期的に減額するのが望ましいです。逓減定期保険や収入保障保険であれば、期間の経過とともに保険金の受取総額が減少していくため、見直しをする手間や時間を減らせるでしょう。

また、亡くなった人の葬儀費用や遺品の整理費用などは定期保険で、生活費や教育費は収入保障保険でそれぞれ備えるのも方法です。

団信に加入しても生命保険は安易に解約しない

「団信に加入したのであれば生命保険に加入する必要はないのでは?」と考えている方もいるでしょう。しかし、団信に加入したからといって生命保険が不要になるとは限りません。ここでは、団信の保障だけでは十分とはいえない理由を解説していきます。

団信でカバーできるのは住居費だけ

団信でカバーできるのは、万一のことがあったあとに残された家族が支払う住居費のみです。生活費や教育費まではカバーできないため、生命保険が不要になるわけではありません。

例えば、夫が亡くなったあとに専業主婦の妻と未成年の子供が残される場合、生命保険に加入していなければ生活が苦しくなるかもしれません。また子供が高校や大学へと進学していくのであれば、生命保険の保険金を受け取れなければ教育費が足りず希望するルートで進学できない恐れがあります。

このように団信に加入したとしても、亡くなったあとに残された家族がお金に困る恐れがあるのなら、生命保険に加入する必要性があるといえるでしょう。

ペアローンの場合は債務が残る

ペアローンとは、同じ物件に対して複数の人物がローンを契約し、お互いが連帯保証人となる借入方法です。ローン契約を結ぶ人の収入を合算したうえで借入可能額が計算されるため、一人では購入が困難であった物件にも手が届く可能性があります。

ペアローンは、契約した人それぞれが団信に加入できます。しかし、契約者の一人が亡くなり団信の保障が適用されても、生存している契約者の返済義務はなくなりません。

例えば、夫婦でペアローンを組んで物件を購入したとしましょう。返済の途中で夫が亡くなったとき、夫が借り入れた金額については団信の保険金で完済されますが、妻は自分自身が借り入れたぶんを引き続き返済していかなければなりません。

一方で、夫が亡くなると世帯収入は低下するため、住宅ローンの返済が困難になるかもしれません。夫婦のどちらかが亡くなったあと、返済を続けられるか不安なのであれば、生命保険への加入を検討しましょう。

住宅ローンを完済すると団信の保障も終わる

団信の保障期間は、住宅ローンの返済期間と同じです。住宅ローンの返済が終わったあとも亡くなったときの保障が必要なのであれば、生命保険に加入したほうが良いでしょう。

万一のときに必要となるお金のうち「葬儀費用」や「お墓の購入費用」は、年齢や家族構成にかかわらず発生する可能性があります。葬儀費用やお墓の購入費用を準備したい場合は、一生涯にわたって万一に備えられる「終身保険」に加入するのも方法でしょう。

生命保険に加入する際は、健康状態やこれまでの病歴などを保険会社に告知します。人間は、高齢になるほど病気をするリスクが高まるため、年を重ねるほど生命保険に加入するのが難しくなっていきます。将来のことを考えて、健康なうちに生命保険に加入しておくのも方法の1つです。

住宅ローンを組んだら病気・ケガのリスクや老後のリスクにも備える

団信に加入したときに見直したほうが良いのは、生命保険(死亡保険)だけではありません。病気やけがで働けなくなったり老後生活に入ったりして、収入が減少したときも住宅ローンの返済が継続できるように備えておくことも大切です。

もし収入が低下して住宅ローンの返済が厳しくなったときは、金融機関に相談すると返済を猶予してもらえることがあります。しかし、長期間にわたって滞納が続くと、最悪の場合、金融機関にマイホームを差し押さえられてしまうかもしれません。

収入が減少したときに住宅ローンの滞納を防ぐために、生命保険や医療保険に加入して備えておくのも方法でしょう。ここでは、病気やけが、老後などのリスクに備えらえる保険の種類を解説します。

病気・ケガのリスクに備える

団信には、死亡や高度障害だけでなく、三大疾病や八大疾病にも備えられるものもあります。しかし保障が適用される範囲が広がっても、団信のほとんどは住宅ローンの残債をカバーする保険です。病気やけがで入院・手術をしたときの医療費や、働けなくなったことによる収入の減少に備えるためには民間保険への加入を検討しましょう。

会社員や公務員であれば、病気やけがで長期間にわたって働けなくなると、加入している健康保険から「傷病手当金」を受給して収入の減少をカバーできる可能性があります。しかし傷病手当金の受給額は、支給が始まる前の12か月の平均月収の2/3が目安です。また受給期間は、最長1年6か月となります。

傷病手当金の受給だけでは長期間にわたって働けなくなったときに住宅ローンの返済が難しくなるかもしれません。長期間にわたって働けなくなったときの収入減少に備えたいのであれば「就業不能保険」を検討するのも方法です。

就業不能保険は、病気やけがで働けなくなってから、一定の免責期間が経過すると、再び働けるようになるか保険期間が満了するまで、毎月一定額の保険金が支払われます。免責期間は、60日や180日などが一般的です。保険期間は、基本的に「60歳まで」のように年齢で設定します。

老後のリスクに備える

多くの金融機関が、住宅ローンの完済時の上限年齢を80歳までとしています。そのため住宅ローンの完済年齢が、一般的に定年退職を迎える60歳や65歳以降になっている方もいるかもしれません。

多くの方は、定年退職を迎えたあと、主な収入源が国から支給される老齢年金となり、働いていた頃よりも世帯収入が低下します。そのため、老後生活を迎え世帯収入が低下したあとも、住宅ローンの返済が続くのであれば「個人年金保険」や「終身保険」などに加入して返済原資を確保するのも方法でしょう。

個人年金保険は、保険料を支払うことで契約時に定めた年齢に達すると、一定期間または一生涯にわたって年金が支払われる保険です。国から支給される老齢年金と合わせて年金を受け取ることで、収入の減少をカバーし住宅ローンを滞納するリスクを抑えられます。

終身保険は、一生涯にわたる死亡・高度障害保障を得られる保険です。契約から一定期間が経過したあとに解約をすると、支払った保険料以上の解約返戻金を受け取れることがあります。受け取った解約返戻金で住宅ローンを繰り上げ返済し、毎月の返済負担を軽減したり返済期間を短縮したりするのも方法の1つです。

なお、これから住宅ローンを組もうとしている方は、老後も返済が継続できるのかを考えたうえで慎重に返済期間を設定しましょう。

まとめ

団信に加入すると、住宅ローンを返済する人が亡くなったり高度障害状態になったりしたとき、ローンの残りが保険金で全額返済されます。そのため、残された家族は住宅ローンの返済をすることなく引き続きマイホームに住めます。

団信に加入することで、賃貸住宅に住んでいたときよりも、亡くなったあとに家族が支払う住居費用が少なくなるのであれば、生命保険の死亡保険金額を見直しましょう。

また、病気・けがで働けなくなったときや老後生活を迎えたとき、収入が減少して住宅ローンの返済が困難になる恐れがあるのなら、民間保険に加入して備えるのも方法です。

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監修者プロフィール

宮里 恵
(M・Mプランニング)

保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

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