離婚すると、夫婦が共同で保有していた財産はそれぞれ分割します。これを財産分与と言います。生命保険も種類によっては財産分与の対象となります。

本記事では、財産分与の対象になる生命保険の種類や離婚するときの生命保険の取り扱いについて、詳しく説明します。

財産分与とは?

財産分与とは、夫婦が婚姻生活中に共同で形成してきた財産を、離婚を機にそれぞれの貢献度に応じて分割することです。民法では、離婚する際、法律に則って相手方に財産分与を求めることができると定められています。

夫婦によっては、離婚の手続きを急ぐあまり、きちんと財産分与しないまま別れてしまうケースもあります。

しかし、本来受け取れるはずの財産をもらわずに離婚してしまうと、今後の生活が苦しくなるかもしれません。法律に沿って財産分与すれば、離婚後も安定的な生活を送りやすくなるでしょう。

財産分与の対象になる保険の種類

財産分与の対象になる保険の例は、次の5つです。

  • 死亡保険
  • 学資保険
  • 損害保険

以下では、これらの保険の種類と財産分与との関係について説明します。

死亡保険

死亡保険は、被保険者(保険の対象となる人)が死亡または高度障害状態になったときに、保険会社から死亡保険金を受け取れる生命保険です。

生命保険のうち貯蓄性のあるものは、解約返戻金が財産分与の対象です。もし解約せずに引き継いだ場合は、解約返戻金相当額の1/2を現金で相手に払って精算することになります。

一方、定期保険や収入保障保険は、掛け捨て型の生命保険であるため、基本的に財産分与の対象となりません。しかし、解約返戻金があれば財産分与の対象となることがあります。

終身保険

終身保険は、死亡保険の中でも保障が一生涯続くタイプの保険です。保険期間が決まっている定期保険とは違い、終身保険の多くは支払った保険料が積み立てられるため、解約する時期によっては解約返戻金を受け取れます。解約返戻金は財産分与の対象なので、養育費や慰謝料などの支払いを決めるときに、被保険者が死亡したときに備えて財産分与の対象に含めることができます。

たとえば、死亡保険の被保険者が夫の場合、離婚するときに養育費や慰謝料などの支払い義務を夫が負う際に、死亡保険金の受取人を債権者に設定するケースが考えられます。債務の支払い期間中に被保険者が亡くなる可能性は低いですが、債務が多いときはこのような財産分与がおこなわれる場合があります。

養老保険

養老保険は、あらかじめ一定の保険期間を設定し、期間内に被保険者が死亡したら死亡保険金を受け取り、満期に達したら満期保険金を受け取れるタイプの生命保険です。学資保険と同様に貯蓄性があるのが特徴で、死亡保険金と満期保険金は同額です。

また、養老保険にも解約したときに受け取れるお金である「解約返戻金」があります。そのため、離婚協議する際は、養老保険の解約返戻金を財産分与の対象に含めてそれぞれが受け取る金額を決めることが可能です。

収入保障保険

収入保障保険は、保険期間内に被保険者が死亡したときに、あらかじめ設定した保険金を満期に達するまで月々の給料のように受け取れる保険です。商品によっては、一括で保険金を受け取れたり、年金と一時金受取を併用したりできます。

収入保障保険に加入すると、家計を支える人が死亡しても遺された家族の生活費をまかないやすくなります。もしものときに受けられる公的保障が限定的な自営業の人や、小さい子供を持つ人に向いています。

収入保障保険も、種類によっては貯蓄性があるため財産分与の対象になる場合があります。しかし、多くの収入保障保険は支払った保険料がほとんどまたは全く戻ってこない「掛け捨て型」です。そのため、収入保障保険によっては財産分与の対象外になります。

学資保険

学資保険は、子供の教育資金や学費を貯める目的の生命保険です。保険料を支払うと、子供が一定の年齢に達したタイミングで学資金を受け取れます。保険期間中、両親に万が一のことがあっても、保障を継続させつつ保険料の払い込みを免除してもらえる学資保険もあります。

学資保険は、貯蓄性のある保険として財産分与の対象にすることも可能です。具体的な財産分与の方法は後述しますが、学資保険を解約して支払った保険料の一部を払い戻してもらう方法や、親権者に名義を変更する方法で財産分与することが可能です。

損害保険

損害保険は、突発的に生じた事故によって身体または財物に損害が発生したときの損害を補償してもらえる保険です。たとえば、自動車運転中の損害に備えられる「自動車保険」や、火災による建物や家財への損害を補償してもらえる「火災保険」などがあります。

損害保険で受け取ったお金が財産分与の対象になるかどうかは、損害保険金の保険金の項目(治療費や休業損害、財物の修理代や逸失利益など)によって異なります。たとえば、損害保険金のうち、自賠責保険から支払われた部分は夫婦の財産とみなされるため、財産分与の対象になる場合があります。損害保険に解約返戻金がある場合も、財産分与の対象に含まれます。

ただし、受け取った損害保険金によっては財産分与の対象外と認められる可能性があるため、弁護士などの専門家に相談しながら協議を進めると良いでしょう。

団体信用生命保険に財産分与はない

団体信用生命保険とは、住宅ローンを組んでいる人が死亡や高度障害状態になったときに備える保険です。ローンを組んでいる人に万が一のことがあると、その後のローンの返済が免除されるため、遺された家族の住居費用を抑えられる可能性があります。

財産分与の対象に含まれる生命保険はいくつかありましたが、団体信用生命保険は原則財産分与の対象に含まれません。それは、団体信用生命保険が保険料を積み立てて資産形成するものではないからです。

また、保険金の受取人が金融機関に設定されているものがほとんどなので、ローンを組んでいる人の財産と認められにくいのも財産分与の対象外とみなされやすい理由です。

離婚するときの生命保険の取り扱い

種類によっては財産分与の対象になるため、離婚する際の生命保険の取り扱いについて知っておくことも大切です。離婚時の生命保険の取り扱い方法として、次の3つが挙げられます。

  • 契約を継続する
  • 保険金の受取人を変更する
  • 契約を解消する

以下では、これらの取り扱い方法について詳しく説明します。

契約を継続する

年齢が低い頃に終身保険に加入すると、割安な保険料で備えを用意やすくなります。そのため、生命保険を解約すると、再度保険に加入するときに保険料の負担が増える可能性があります。その場合、生命保険の契約者を変更すれば保険料を変えずに保障を継続させられます。

また、契約者を変更せずに、財産分与する際の解約返戻金に相当する金額の1/2を代償金として相手に支払う方法もあります。この場合、代償金の支払い負担は生じるものの、保険を解約せずに済むでしょう。

保険金の受取人を変更する

保険金の受取人を変更する方法も、保険契約を継続させて財産分与をする手段の1つです。たとえば、保険金の受取人を元配偶者から自分の両親や子供などに変更しておくと、元配偶者に将来まとまったお金が渡らないでしょう。

生命保険の契約者であれば、同意がなくても受取人を変更できることがほとんどです。しかし、配偶者の同意を得ずに受取人を変更すると、トラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。円満に財産分与するには、お互いによく話し合ってから契約内容を変更する必要があります。

契約を解消する

保険契約を継続させて財産分与するのが難しい場合、解約して財産を分けることになります。解約方法は保険会社によって異なりますが、保険証書や解約申請書、本人確認書類など所定の書類を送付することで解約手続きを進めるのが一般的です。

解約が受け付けされると、保険会社から指定した口座に解約返戻金が支払われます。財産分与では、受け取った解約返戻金額を半分ずつ双方が受け取るのが一般的です。

生命保険の財産分与についてよくある疑問や質問

生命保険の加入方法や加入タイミングはさまざまなので、財産分与する際に疑問や悩みを持つ人も多いのではないでしょうか。

ここでは、生命保険の財産分与についてよくある疑問や質問を紹介します。

生命保険を親がかけていた場合は財産分与できる?

人によっては、両親が生命保険を契約しており、自分自身が被保険者に設定されている場合があります。そのようなケースでは、両親が保険料の支払いを負担しているため、夫婦が共同で保有する財産と認められないと考えられます。

このように、夫婦のどちらか一方が保有し財産分与の対象にならない財産は「特有財産」といいます。相手が保有する財産を財産分与の対象として請求する際は、請求する側が保険料を支払っている人が誰かを立証しなければならないため、手続きが難航する場合があります。

結婚する前に加入した生命保険は財産分与できる?

結婚前に加入した生命保険は、結婚後は夫婦共通の財産から保険料を支払ったとみなされるため、財産分与の対象になる場合があります。見解はさまざまですが、離婚時の解約返戻金相当額と結婚時の解約返戻金相当額の差額が、財産分与の対象となる可能性もあります。

結婚前に保険会社から満期金や解約返戻金などを受け取った場合、そのお金は財産分与の対象になりません。ただし、保険会社から受け取るお金を結婚後に夫婦で使う口座で受け取った場合、将来的に財産分与の対象に含まれる可能性が高いです。

まとめ

離婚で財産分与できる生命保険には、終身保険や学資保険、養老保険があります。定期保険や収入保障保険なども、解約返戻金があれば財産分与の対象となる場合があります。一方、解約返戻金がない生命保険や団体信用生命保険は、原則として財産分与の対象になりません。

また、生命保険を財産分与する際は、契約者や受取人の名義変更をして契約を継続する方法や解約して解約返戻金を分割する方法があります。ただし、契約者や生命保険に加入するタイミングによっては、財産分与の対象になるときもあればならないときもあります。

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監修者プロフィール

宮里 恵
(M・Mプランニング)

保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

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