居住する建物やそこにある家財を守るには、火災保険の加入が大切です。しかし、進学や就職などライフステージの変化にともない引っ越しすることもあるでしょう。

引っ越しをすれば建物の面積や構造、居住エリアの災害リスクといった居住環境が変わります。火災保険においても変更手続きが必要ですが、補償内容の見直す機会にもなります。

この記事では、引っ越しするときの火災保険の手続き方法や見直しの際に意識すべきポイントを説明します。

引っ越しする際は火災保険の契約変更が必要

火災保険は保険の対象が建物と家財です。そのため、引っ越しによって保険の対象である建物が変わる場合は、必ず契約の変更手続きをしなければなりません。場合によっては契約を引き継げない可能性もあるため、引っ越し後ではなく引っ越し前に必ず代理店や保険会社に契約変更の連絡をしましょう。

契約の変更を忘れてしまった場合、引っ越し後に補償が途切れてしまう可能性もあります。

もしものときに必要な補償を受けられなくなることもあるため、注意が必要です。

【状況別】引っ越し時におこなう火災保険の手続き

では、引っ越しが決まったら、どのように火災保険の手続きを進めれば良いのでしょうか。

具体的な手続き方法は引っ越しの状況によって異なります。以下では、状況別に引っ越し時におこなう火災保険の手続き方法を説明します。

賃貸住宅から持ち家に引っ越す場合

「一人暮らしのときは賃貸住宅に住んでいたが、結婚して持ち家に引っ越すことになった」のように、賃貸住宅から持ち家に引っ越す場合は、原則として賃貸住宅で契約していた火災保険は引き継げません。

持ち家の火災保険と賃貸住宅の火災保険では保険の内容が違うからです。

賃貸住宅で不動産会社から加入をすすめられる火災保険の多くは、賃貸住宅の入居者専用のものです。賃貸住宅の場合、建物本体の補償は家主が別に加入しているため、借主である入居者が入る火災保険は家財の補償と借家人賠償責任補償が中心となっています。

このように賃貸住宅の火災保険は賃貸住宅に特化した内容になっているため、持ち家の火災保険として引き継ぐのは難しいのです。

賃貸住宅から持ち家に引っ越す場合は、一度火災保険を解約して新たに加入しなおす必要があります。

賃貸住宅から賃貸住宅に引っ越す場合

転勤や就職などで賃貸住宅から賃貸住宅に引っ越す場合、建物の形態が同じであれば保険会社に住所変更の手続きをすることで火災保険を継続できる可能性が高いです。

火災保険を引き継げれば、新たに火災保険を探したり契約したりする必要がありません。

新たに契約する賃貸住宅によっては、不動産会社が指定する火災保険への加入を条件にしている場合があります。

ただし、不動産会社の指定する火災保険に加入する法的義務はありません。そのときは、以前加入していた火災保険と紹介された火災保険を比較し、今の契約を引き継ぐか新しく契約するか決めるといいでしょう。

持ち家から賃貸住宅に引っ越す場合

「持ち家を売却して賃貸住宅に住むことになった」のように、持ち家から賃貸住宅に引っ越す場合も、賃貸住宅から持ち家に引っ越すときと同様に火災保険は新しく加入し直す必要があります。火災保険または、既存の契約の建物部分の契約だけ解約して、家財部分のみ残せる場合もありますので、保険会社に確認してみましょう。

持ち家を売却する場合は今の火災保険を解約し、次の住宅で新たに賃貸住宅専用の火災保険を加入することになります。

賃貸住宅の場合、火災保険の加入は義務ではありません。しかし、なんらかの火災保険の加入をしなければ賃貸契約を結べない場合が多いです。

持ち家から一時的に賃貸住宅に引っ越す場合

「単身赴任で一定期間賃貸住宅を借りるが、今後持ち家に戻る予定がある」のように、持ち家の所有を継続する場合、加入していた火災保険を解約する必要はありません。

実家に残る家族のためにも、持ち家の火災保険は引き続き必要です。

単身赴任の場合は会社が用意した社宅で住むことが多く、社宅の火災保険も会社負担で用意されていることがほとんどです。社宅へ引っ越すときはまず会社へ転居先の住宅について確認するといいでしょう。

子どもが大学へ進学するなど、単身赴任以外で実家を離れて賃貸住宅へ引っ越す場合は、賃貸住宅専用の火災保険に加入しましょう。もちろん、先述のとおり賃貸住宅の火災保険に法的な加入義務はありません。

しかし、初めて一人暮らしをする子どものことを考えると火災保険があると安心です。慣れない家事でちょっとしたボヤを起こす可能性も考えられるため、子どものために賃貸住宅専用の火災保険を加入しておくといいでしょう。

持ち家から持ち家に引っ越す場合

「実家を売却して新たに違う家を購入して住む」のように、持ち家から持ち家に引っ越す場合は、契約の変更手続きをすれば以前の火災保険を引き継げる可能性が高いです。

ただし、引っ越し後の持ち家の居住エリアや物件の構造といった要因により、保険料は再計算されます。場合によっては保険料が上がる可能性もありますし、広い家であれば保険金額を見直す必要も出てくるでしょう。

その際は必要に応じて保険料の追加徴収や差額の払い戻しがあるので、保険会社からの連絡内容を確認しましょう。

また、「実家を離れるが両親がそこに住み続けるため、火災保険は実家でかけ続ける」といったケースでは、引っ越し先の持ち家で新たな火災保険に加入しなければならない可能性が高いです。住宅の購入に伴い住宅ローンを利用する場合、火災保険の加入が必須だからです。実家と新居に1つの火災保険をかけるのは基本的にできないので、忘れずに手続きしましょう。

火災保険の契約内容を変更する手順

火災保険の契約内容を変更する場合、まずは保険会社や代理店に連絡して変更したい内容を伝えます。保険代理店に足を運んだりコールセンターに連絡したりする方法が代表的ですが、保険会社によっては、インターネットで契約内容の変更を受付けています。

保険会社に連絡したら、必要書類が自宅に郵送されるため、引っ越し先の住所を記載したりプランの変更内容を記載したりして、保険会社に返送しましょう。その際、押印や登記簿謄本、住宅性能評価表などの提出を求められるケースもあるため、不備の無いよう注意が必要です。

火災保険で住所変更する際のポイント

火災保険の住所変更方法はそこまで難しくありませんが、上手に火災保険を使い続けるには次のポイントを意識することが大切です。

  • なるべく早く保険会社に連絡する
  • 受け取れる解約返戻金額を確認する
  • 引っ越し先で契約を継続できるか把握する
  • 引っ越し後の保険料を聞いておく
  • 空き家の火災保険も検討する
  • 引っ越しが完了するまで従来の契約を継続させる

以下では、これらのポイントについて詳しく説明します。

なるべく早く保険会社に連絡する

荷造りや仕事の引き継ぎなど、引っ越しが決まるとさまざまな予定に追われて忙しくなるかもしれません。しかし、火災保険の解約が必要なのに手続きを忘れ新居で新たな火災保険に加入すると、二重で火災保険の加入をしていることになります。

プラン変更後の保険料の返還に時間がかかるケースもあるため、引っ越しすることが分かった時点で保険会社に連絡しましょう。

受け取れる解約返戻金額を確認する

引っ越しで火災保険を中途解約する場合、契約状況によっては解約返戻金が発生します。そのため、解約時には保険会社に受け取れる解約返戻金額を確認することが大切です。

解約返戻金とは、保険を中途解約するときに手もとに戻ってくるお金で、満期になるまでの残りの保険期間に応じた保険料が計算され、契約者に払い戻しされます。

たとえば火災保険を10年満期で一括払いした後、加入後5年で解約すれば、残り5年分の保険料相当額の解約返戻金が発生することになります。

火災保険は、契約期間全体の保険料を一括で支払うことが多いです。そのため、解約のタイミングによってはある程度まとまったお金を受け取れる可能性があります。

ただし、解約の連絡が遅れると、未経過ぶんの保険料が少なくなるので受け取れる解約返戻金額が少なくなることも考えられます。より多くの解約返戻金を受け取るためにも、引っ越しが決まったタイミングで保険会社に連絡しましょう。

引っ越し先で契約を継続できるか把握する

火災保険は建物の構造や所在地、面積といった条件によって保険料が変わります。引っ越し先によっては現在加入中の火災保険が使えなくなることもあるため注意が必要です。

契約を継続できれば住所変更手続きのみで火災保険の手続きを終えられるので、スムーズに引っ越しができるでしょう。

しかし、賃貸住宅から持ち家に引っ越すときなど、火災保険の再加入が必要な場合もあります。新たに火災保険を選んで契約するにはある程度時間が必要なので、余裕を持って保険会社に確認しましょう。

引っ越し後の保険料を聞いておく

引っ越し先で現在の火災保険が継続できても、エリアや構造といった条件によっては保険料が変わる可能性があります。

保険料が安くなれば、支払った保険料から差額を返還してもらえる場合があるため、返還請求等をおこないます。

一方、保険料が高くなる場合、保険料を追加で支払わなければならないため、保険会社が指定する期日までに支払い手続きを済ませる必要があります。

ただし、保険料があまりに高額で支払いが困難なときは、補償を限定して保険料を抑えたり、解約してほかの火災保険に加入したりすることも検討しましょう。引っ越しの理由によっては長期間火災保険に加入する場合もあるため、収支のバランスも考えて保険料を設定することが大切です。

空き家の火災保険も検討する

人によっては、引っ越し前の建物が空き家になることもあるでしょう。その場合、物件の状況によっては火災保険を継続できない可能性があるので注意が必要です。

住宅用の火災保険は、住居として使用する建物や家財を補償するものです。一方、住居以外のオフィスや店舗用の建物は住居という扱いにならず、一般物件という扱いで火災保険に加入する必要があります。空き家の場合も同様で、一般物件になるため契約内容を見直さなければなりません。

保険会社によっては、一般物件用の火災保険への切り替えができない可能性もあります。空き家の管理状況がよくない場合は、加入を断られてしまうこと考えられます。

引っ越し前の住居が空き家になる場合は、保険会社に相談のうえ契約をどうするか検討しましょう。

引っ越しが完了するまで従来の契約を継続させる

引っ越しで火災保険の住所変更や再加入をする際に、手続き方法によっては補償が途切れる場合があるので注意が必要です。たとえば、「新居に引っ越す予定があるから、すぐに火災保険を解約しよう」と解約手続きをすると、引っ越し日までの補償が無くなってしまいます。

引っ越し先で火災保険に加入していても、引っ越し前の物件で生じた損害は補償されない可能性が高いです。「退去時に壁に穴を開けてしまった」のように、引っ越し当日にトラブルが起こる可能性もあるため、補償に切れ目が無いように手続きしましょう。

まとめ

ここまで、引っ越しの状況別に火災保険の手続き方法を説明しました。場合によっては契約を引き継げず解約が必要になるケースもあるため、意識すべきポイントを考えながら余裕を持って手続きを進めることが大切です。

また、引っ越し後に以前の建物が空き家になるときは、通常の火災保険で対応できない可能性があります。もしものことが起こると、自分自身だけでなく近隣住民に損害を与えてしまうかもしれないので、空き家に対応した火災保険に見直すとともに、空き家管理の方向性を決めるのも大切です。

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監修者プロフィール

宮里 恵
(M・Mプランニング)

保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

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