電気自動車や電動バイクなど、電力を使った移動手段は、人々の生活を便利で快適なものにするだけでなく、環境にも優しいため注目を集めています。そんな移動手段の1つに「電動キックボード」があり、街で見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。

公園や歩道などで手軽に移動できるキックボードは、子供から大人まで人気のある乗り物ですが、電動キックボードとは区別して使わなければなりません。今回は、電動キックボードの概要や走行する際の条件、保険の必要性や補償対象外になるケースを説明します。

電動キックボードとはどんな乗り物?

電動キックボードとは、電動式のモーターが取り付けられたキックボードです。

0.60キロワット以下の出力を持つ原動機が搭載されているものは「原動機付自転車(原付きバイク)」に該当します。そのため、原動機付自転車と同様に法令に基づいて走行しなければなりません。

2022年4月19日、道路交通法改正案が可決

2022年4月19日、参院本会議で電動キックボードの道路交通法改正案が可決され、今後2年以内に施行されます。

今回の法改正では以下が見直され、結果的に規制が緩和されることになりました。

  • 最高速度が20km/h以下で、一定要件を満たす電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」という新しい車両区分になる(※)
  • 16歳以上は免許不要で乗車が可能(16歳未満は乗車禁止)
  • ヘルメットの着用は努力義務(任意)
  • 車道に加え、普通自転車専用通行帯、自転車道の走行が可能となる

※最高速度が20km/h以上のものは引き続き「原動機付自転車(原付きバイク)」に該当する

電動キックボードで走行する際の条件

法律上原動機付自転車(原付きバイク)と同様の扱いとなる電動キックボードは、次の条件を満たしたうえで走行しなければなりません。

  • ・運転免許の所持や原則ヘルメット着用が必要(※)
  • ・制動装置やライト、ミラーを備える
  • ・市区町村が定めるナンバープレートを装着する
  • ・自賠責保険に加入する

※特例電動キックボードの場合はヘルメットの着目は任意

以下では、これらの条件について詳しく説明します。

運転免許の所持やヘルメット着用が必要

電動キックボードを使うときは、原動機付自転車(原付きバイク)を運転できる運転免許証の携帯が必要です。

また、電動キックボードを使う際は、原則、道路交通法を遵守しなければなりません。そのため電動キックボードは、歩道や公園内は通行できず、車道を走行する必要があります。走行時は、ヘルメットの着用も義務付けられています。

「近所のコンビニに行くだけだからヘルメットを着用せずに電動キックボードを使う」といった使い方をすると、重大なケガにつながる恐れがあるため、忘れずに着用しましょう。

ほかにも、無免許で電動キックボードを走行させると、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」の刑事罰が課せられます。

なお、令和3年4月より、国家公安委員会及び国土交通省において電動キックボードの安全性を検証する特例措置が講じられました。特例措置の対象となる「特例電動キックボード」においては、「道路交通法施行規則」や「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」の規制が一部緩和されています。

出典:特例電動キックボードの実証実験の実施について

制動装置やライト、ミラーを備える

電動キックボードを走行させるには、運転免許証やヘルメットのほかに、ブレーキや前照灯、後写鏡の設置など、道路運送車両法に沿って車両が整備されていなければなりません。

もし整備不良の車両を道路で走行させた場合「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」のペナルティが課せられます。

市区町村が定めるナンバープレートを装着する

電動キックボードは、整備をおこなうとともに、市区町村が定めるナンバープレートも装着する必要があります。これは、地方税法で電動キックボードの所有者に軽自動車税の納付義務が課せられているからです。

軽自動車税を納付すると、ナンバープレートが交付されるので、外部から見えやすい位置に取り付けましょう。

自賠責保険に加入する

車両整備された電動キックボードでも、事故に遭うリスクはゼロではありません。道路交通法で原動機付自転車に該当する電動キックボードは、原付バイクと同様に自賠責保険の加入義務があります。

自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的とした保険です。事故相手にケガや後遺障害を負わせたり、死亡させたりしたときに保険金が支払われます。

自賠責保険に加入せずにキックボードで走行すると、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科せられます。また、交通事故を起こしたときに損害を賠償できないおそれがあるため、忘れずに加入しましょう。

自賠責保険の加入方法と料金

電動キックボードを使用する際は自賠責保険の加入が必要です。以下では、自賠責保険の加入方法や料金について説明します。

保険会社や販売店、コンビニなどで手続きする

自賠責保険は、保険会社や電動キックボードの販売店で加入手続きをするのが一般的です。

保険会社で手続きすれば、保険のプロに相談しながら万が一の事故に備えられるので安心です。一方、電動キックボードの販売店で加入すれば、商品購入と同時に保険に加入できるため、手続きの手間を抑えて電動キックボードを使用開始できます。

また、自賠責保険はコンビニや一部の郵便局、インターネットでの加入もできるため、自身の状況にあわせて加入手続きをおこなえます。

自賠責保険に加入するための費用

自賠責保険に加入する際は、手続き方法のほかに保険料についても知っておきましょう。

自賠責保険の保険料は車種と加入期間によって違い、電動キックボードの場合、125cc以下の原動機付自転車に該当するため、保険料は次のようになります。

保険期間保険料
12ヶ月7,070円
24ヶ月8,850円
36ヶ月10,590円
48ヶ月12,300円

参照:自動車損害賠償責任保険基準料率|損害保険料率算出機構

このように保険料は保険期間を長く設定するほど割安になるため、電動キックボードを長く使用するのであれば、保険期間を長く設定したほうが良いでしょう。

なお、自賠責保険はどの保険会社で加入しても保険料は同じです。

電動キックボードでの事故に任意保険で備えていますか?

自動車保険やバイク保険などと同様に、電動キックボードにも任意保険があります。任意保険は自賠責保険のように加入義務はありませんが、どれくらいの人が加入しているのでしょうか。

2021年に編集部がおこなった独自調査では、電動キックボードを所有している人のうち、「任意保険に加入している」と回答した人は全体の18.0%でした。一方、残りの82.0%の人は「任意保険に加入していない」と回答しており、電動キックボードを所有するほとんどの人が任意保険に加入していないことが分かりました。

電動キックボードに任意保険は必要?

任意保険の必要性を判断するには、自賠責保険と任意保険の違いを知る必要があります。

自賠責保険と任意保険の大きな違いは、補償金額と補償範囲です。自賠責保険の補償範囲は対人賠償に限られており、補償額は被害者1名につき死亡時に3,000万円のように限度があります。

一方、任意保険は、対人賠償額を無制限に設定できるものもあるため、賠償額が自賠責保険の補償上限額を超えても保険でカバーしやすくなっています。

それに加えて、対物賠償や自損事故の補償、人身傷害保険や無保険車傷害保険など、相手の財物や自分自身に生じる損害も補填できるため、より手厚い備えを用意して電動キックボードを使用できます。もちろん、任意保険に加入すると自賠責保険に加えて保険料を負担しなければなりません。

しかし、電動キックボードでも、交通事故を起こしたときに多額の多額の損害賠償を負うおそれがあるため、任意保険の加入を検討する価値はあると言えます。

電動キックボードの任意保険に加入する方法

任意保険に加入する場合の具体的な手続き方法は次の2つです。

  • 原動機付自転車の任意保険に単体で加入する
  • ファミリーバイク特約でカバーする

以下では、これらの手続き方法について詳しく説明します。

原動機付自転車の任意保険に単体で加入する

電動キックボードの任意保険に加入するときは、各保険会社が提供している原動機付自転車の保険に申し込みます。

保険会社ごとにプランや保険料が異なるため、複数の保険会社に見積もりを依頼し、納得できる保障内容や保険料などを提示してくれた保険を選びましょう。

ファミリーバイク特約でカバーする

ファミリーバイク特約は、自動車保険に加入するときに特約として加入できるバイク保険です。

バイク向けの保険ではありますが、この特約では道路運送車両法で定める原動機付自転車も補償対象に含まれるため、加入条件を満たせば電動キックボードでの事故もカバーできます。

また、ファミリーバイク特約は、原動機付自転車の任意保険に単体で加入するよりも保険料を抑えやすいのもメリットです。家族や友人が電動キックボードを使っているときも補償してもらえたり、複数台の電動キックボードを補償対象にできたりするので、自動車保険に加入している人はこの特約を検討すると良いでしょう。

電動キックボードでの事故が補償対象外になるケース

高額の損害賠償責任もカバーできる任意保険ですが、加入したからといってすべての事故が補償されるわけではありません。

以下では、電動キックボードでの事故が補償対象外になるケースを紹介します。

警察に事故の届出をしていない

道路交通法では、「どのような事故でも警察に届け出なければならない」とされています。そのため、「大したケガではないから大丈夫」「小さな物損事故だからそのまま当事者同士で話し合おう」と考えて警察に事故届けをしないと、「交通事故証明書」が発行されないため補償を受けられない可能性が高いです。

通常、警察に事故を届け出ると、事故の発生日時や発生場所、当事者の氏名や住所、事故の状況などが記載された「交通事故証明書」が発行できるようになります。

交通事故証明書は、正確な補償額を計算するために必要な書類の1つなので、保険金を請求するときの必要書類となることがほとんどです。

事故証明書の取得は保険会社が代行してくれることが多いですが、そもそも発行されていないと取得できません。そのため事故の程度や被害者、加害者の有無を問わず、事故を起こしたら警察に届出るようにしましょう。

補償範囲外の人が事故を起こした

先述したように、自動車保険にファミリーバイク特約を付けると、本人以外の家族や親族も補償範囲に含めることができます。

ただし、補償される家族は、保険に加入している本人と同居している親族や、別居している未婚の子供に限定されていることが多いです。別居している両親や結婚して県外に住んでいる子供などが電動キックボードで事故を起こしても補償してもらえない可能性があるので、保険加入時に補償範囲を確認しましょう。

電動キックボードを業務で使用した

電動キックボードを使う目的は人それぞれですが、食品のデリバリーや新聞配達など、業務目的で電動キックボードを使った場合、その間に起きた事故は補償してもらえない可能性があります。

電動キックボードはコンパクトなので細い道も通りやすいといったメリットもありますが、多くの任意保険は日常生活での事故を補償するものです。業務で使う場合は、別途業務用の契約が必要になるため、保険会社にその旨を伝えて契約しなければなりません。

まとめ

電動キックボードで走行する場合、自賠責保険への加入が必須です。また、交通事故が発生したときの損害をカバーするために、任意保険に加入しておくと安心でしょう。

任意保険は、保険会社によってプランや保険料に違いがあるので、複数の商品を比較して選ぶことが大切です。便利で楽しい暮らしを送れる電動キックボードは、保険のルールをよく確認したうえで交通ルールを遵守して走行させましょう。

保険コンパスなら、何度でも相談無料です

監修者プロフィール

宮里 恵
(M・Mプランニング)

保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

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