借金などの返済が滞ってしまうと、場合によっては資産が差し押さえられてしまいます。差し押さえの対象として代表的なものに、給与や預貯金、自動車や貴金属などが挙げられますが、実は生命保険も種類によっては差し押さえの対象になります。

自分自身の体に万が一のことが起こったときのために加入する生命保険ですが、加入中の生命保険が差し押さえられると、借金が返済できても今後の備えが不十分になりかねません。そこで今回は、差し押さえの概要を説明したうえで、差し押さえ対象となる生命保険の種類や差し押さえを回避する方法、生命保険が差し押さえられた場合の対処方法について説明します。

そもそも差し押さえとは?

冒頭で述べたように、差し押さえとは、借金の返済が滞ったときにその人の財産を強制的に取り立てることを言います。差し押さえは裁判所で決定されるもので、差し押さえをする人は「債権者」、差し押さえされる人は「債務者」と呼ばれます。

差し押さえの原因にはいくつかの種類がありますが、たとえば、消費者金融から借りたお金の返済が滞ったり、クレジットカードの支払いが滞ったりすると財産を差し押さえられる場合があります。ほかにも、社会保険料や住民税といった国や地方に納める税金を滞納したときも、差し押さえられる可能性があります。

もちろん、支払うべきお金を支払えなかったからと言ってすぐに差し押さえられるわけではありません。しかし、いつまでも支払いの目処が立たなかったり、督促を無視してお金を支払う意思を見せなかったりすると差し押さえられる可能性が高まってしまいます。

債権者が差し押さえするメリット

では、なぜ債権者は差し押さえをするのでしょうか。差し押さえは、債権者にとって次のようなメリットがあります。

  • ・強制的に財産を差し押さえられる
  • ・債務者が財産を処分するのを防ぎやすくなる

以下では、これらのメリットについて詳しく説明します。

強制的に財産を差し押さえられる

先述したように、差し押さえは裁判所の決定に基づいておこなわれるので、強制的に債務者の財産を取り立てられます。そのため、何らかの財産であるにも関わらず借金を返済しない債務者がいても、差し押さえをすれば必要な金額を回収しやすくなります。

また、差し押さえをする前に「支払いや返済が確認できなければ差し押さえをする」と債務者に通知すれば、会社や家族などに借金があることを知られるリスクを回避するために支払いや返済に応じてくれる可能性もあります。これまでは少しずつしかお金を回収できなかった債権者も、差し押さえを予告するというプレッシャーを与えれば、差し押さえの手続きを進めることなく多くのお金を回収できる場合があります。

債務者が財産を処分するのを防ぎやすくなる

いざ債務者の財産を取り立てようとしたときに、すでに財産が処分されていると、債権者は必要な金額を回収できなくなってしまいます。しかし、事前に差し押さえをしておけば、このような事態を防ぎながらお金を回収できるようになります。

たとえば、差し押さえによって債務者が銀行口座からお金を引き出せないようにしておけば、債務者がお金をすべて引き出せないようにできます。給与を差し押さえれば、債務者に給与が支払われる前にお金を回収できるでしょう。このように、将来的にお金を回収できなくなるリスクを避けつつ、債務者の財産をスムーズにお金に換えられるのも、差し押さえの大きなメリットです。

債権者が差し押さえするデメリット

債権者にとって大きなメリットがある差し押さえですが、次のデメリットもあります。

  • 差し押さえしてもお金を回収できない場合がある
  • 債権者が債務者の財産の有無を調査しなければならない

以下では、これらのデメリットについて詳しく説明します。

差し押さえしてもお金を回収できない場合がある

差し押さえすれば必要なお金を回収できると思われがちですが、差し押さえしてもお金を回収できないケースもあります。たとえば、仕事をしておらず預貯金等の財産を持っていない人に差し押さえをしても、差し押さえられる収入や財産がないためお金を回収できません。

また、差し押さえられる財産がないにも関わらず差し押さえの手続きを進めると、最終的に債権者の負担だけが増える可能性もあります。それは、債権者が差し押さえのために裁判所や弁護士などに費用は支払わなければならないからです。債券者が差し押さえする際は、こうしたリスクを知ったうえで手続きを進めなければなりません。

債権者が債務者の財産の有無を調査しなければならない

債務者に財産があったとしても、それが隠されていると債権者は差し押さえが難しくなります。「差し押さえ手続きを進めたのにお金を回収できなかった」という結果になるリスクを避けるためには、債権者は、債務者が財産を持っているのか、財産がどこにあるのかを事前に調査する必要があります。

また、裁判所は債務者が財産を持っているかどうかを調査してくれないので、住宅や土地、預貯金や給与などの有無を債権者が1つひとつ調べなければなりません。こうした手間によって債権者に大きな負担がかかることは、差し押さえのデメリットだと言えるでしょう。

生命保険は差し押さえの対象になる?

債権者にとって手続きの負担はかかるものの、場合によっては強制的にお金を取り立てられる差し押さえですが、差し押さえの対象にはさまざまなものがあります。具体例として預貯金や給与、自動車や貴金属などを挙げましたが、実は生命保険も差し押さえの対象になります。

これは平成11年の最高裁判所の判決で認められたことで、生命保険は預貯金と同じように資産価値があるものだと認識されています。生命保険の種類によっては、不測の事態への備えという目的を持つ一方で「投資」としての目的も持っているものもあります。生命保険で債務者が経済的な利益を得られると判断できれば、債権者は差し押さえることが可能です。

差し押さえの対象になる生命保険の種類

先ほど、生命保険は差し押さえの対象になると説明しましたが、すべての生命保険が差し押さえられるわけではありません。生命保険のうち、差し押さえの対象になるものとして次のものが挙げられます。

  • 入院給付金
  • 死亡保険金
  • 満期金
  • 配当金 など

これらように、終身保険や養老保険のように資産価値が認められる生命保険は、差し押さえの対象になりやすいです。ほかにも、生命保険を解約したときに戻ってくる「解約返戻金」も、加入期間や戻ってくる金額によっては差し押さえの対象になります。

生命保険の種類によっては差し押さえの対象外になる

上記のような貯蓄性のある生命保険は差し押さえの対象になりやすいですが、一方で掛け捨て型の生命保険は、資産価値が低いと考えられやすいため差し押さえの対象外になる可能性が高いです。掛け捨て型の生命保険は、ケガや病気などで保険金を受け取らない限り、お金が戻ってこないものが多いからです。

そのため、加入している生命保険が掛け捨て型の生命保険であれば、仮にほかの財産を差し押さえられたとしても万が一の備えは用意し続けられます。財産を失うと将来の生活が不安になってしまいますが、生命保険があればもしものときに生じる経済的な負担を軽減できるでしょう。

公的年金も差し押さえの対象外

ちなみに、個人年金保険のように生命保険から年金形式で受け取るお金は差し押さえの対象になりますが、公的年金は差し押さえの対象外です。これは、公的年金が生活する上で不可欠な収入であると考えられているからです。

差し押さえによって年金を受け取れなくなると、老後の生活がままならなくなってしまいます。公的年金のほかに、畳や衣類、寝具や台所用品など、国民が最低限の生活を維持するために必要な財産は差し押さえの対象外になっていることも知っておきましょう。

生命保険の差し押さえを回避する方法とは?

差し押さえられる財産によっては、会社や家族、親戚などに借金があることが伝わりかねません。また、生命保険が差し押さえられると将来の備えもなくなってしまうので、今後のことが心配になってしまいます。

こうしたリスクを避けるためには、なるべく早く負債をなくさなければなりません。以下では、生命保険の差し押さえを回避する方法について詳しく説明します。

生命保険の解約返戻金で負債をなくす

解約返戻金を受け取れるタイプの生命保険であれば、保険契約を解消することで解約返戻金を負債に充てることができます。

「生命保険の差し押さえは回避できても、将来の備えがなくなってしまうのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、解約返戻金で一度負債をなくして、その後新たに掛け捨て型の生命保険に加入すれば、将来的に生命保険の差し押さえを回避して備えを用意し続けられます。

新たに生命保険に加入するにはお金が必要ですが、保険料を抑えて加入できるタイプの掛け捨て型生命保険を選べば、家計の状況にあわせて備えを準備できるでしょう。

契約者貸付制度を使って借金などを返済する

「どうしても現在の生命保険を解約したくない」という人は、契約者貸付制度を使うと借金などを返済できるかもしれません。契約者貸付制度とは、申し込みの時点で受け取れる解約返戻金を元手にして保険会社からお金を借りる仕組みです。

生命保険に加入している人でなければ利用できませんが、ほかでお金を用意できる目途が立たないのであれば、この制度を利用して返済すれば生命保険が差し押さえられる心配がなくなります。ただし、一時的に借金などを返済できても、後で保険会社に利息をつけてお金を返済しなければなりません。将来の生活が不安定にならないよう、無理のない返済プランを立てたうえで活用することが大切です。

生命保険が差し押さえられた際の対処方法

財産が差し押さえられる前に借金などを返済するのが望ましいですが、もし生命保険が差し押さえられたらどうすれば良いのでしょうか。生命保険が差し押さえられたときの対処方法として、次の2つが挙げられます。

  • ・なるべく早く借金などを返済する
  • ・介入権制度を使う

以下では、これらの対処方法について詳しく説明します。

なるべく早く借金などを返済する

「生命保険を差し押さえる」と通知された場合、早期に借金を返済すれば差し押えを解除してもらえる可能性があります。差し押さえを回避できれば、今まで通り保険契約を継続させたまま負債をなくせるので、将来の備えを維持させることが可能です。

ただし、返済までの期間が長くなったり債権者や保険会社が認めなければ、保険契約は解消されてしまいます。一度解消された保険契約を復活されることは困難なので、返済の目途が立っているのであれば、早めに債権者や保険会社と相談しましょう。

介入権制度を使う

基本的に、生命保険が差し押さえられると、保険契約が解消されて解約返戻金などが債権者に支払われます。しかし、「介入権制度」を使えば、保険契約を維持しつつほかの方法で返済することが可能です。

介入権制度とは、生命保険に加入している人の利益を守るための制度で、差し押さえが執行されるまでに解約返戻金などに相当する金額を債権者に支払えば、保険契約を維持できるのが特長です。

契約者の年齢によっては、生命保険を解約すると持病などが原因で再加入が難しくなりますが、介入権制度を使えば将来の備えを失うリスクを避けやすくなります。

まとめ

ここでは、差し押さえの概要やメリットデメリット、差し押さえの対象になる生命保険の種類や生命保険が差し押さえられたときの対処方法について説明しました。

場合によっては万が一の備えがなくなってしまうので、生命保険が差し押さえられる前に債権者に借金などを返済するのが望ましいです。また、差し押さえられたからといってすぐに諦めるのではなく、契約者貸付制度や介入権制度を活用することも視野に入れておきましょう。

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監修者プロフィール

宮里 恵
(M・Mプランニング)

保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

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