生前贈与の対策として、両親(祖父母)が子供のかわりに保険料を支払うケースをよく見受けますが、子供の口座を介さずに直接、両親(祖父母)の口座から支払うと「名義保険」扱いになり、税務署のマークの対象になってしまいます。

このように、契約者は自分だけど、親(祖父母)が保険料を払っている場合、どのようなリスクや問題点があるのでしょうか。本記事で解説します。

名義保険とは?

「名義保険」というキーワードを一度は聞いたことがあるかもしれません。名義保険とは、子や孫に生命保険の契約書にサインだけさせて、保険料の支払いは子や孫の代わりに親や祖父母が行っている保険を指します。

これが認められてしまうと、資金を移し替えるだけで簡単に相続税を脱税できるため、税務署が目を光らせています。

また名目上、契約者が支払っているように見えても、例えば親が子供の通帳や口座を管理していて、自分の口座から定期的に子供の口座にお金を振り込み、子供の口座から保険料を支払っている場合は、実質の保険料負担者は親となるため、名義保険となります。

保険金受取人によって異なる税金の扱い

生命保険で発生する税金は、契約者、被保険者、保険金受取人の関係によって大きく異なります。ここでは、生命保険で一般的な死亡保険金を例に解説します。

契約者と被保険者が同じ

契約者と被保険者が同一人物の場合、相続税の対象になります。

例;契約者:夫(または妻)被保険者:夫(または妻)、受取人:子

契約者と被保険者、受取人全員が別

契約者、被保険者、受取人の全員が別の場合は、贈与税の対象になります。

例:契約者:夫(または妻)被保険者:妻(または夫)、受取人:子

前述の名義保険では、契約者≠保険料負担者となるため、贈与税扱いになることがあります。

例:契約者:子(保険料負担者が祖父母) 被保険者:夫(または妻)、受取人:子

贈与税は、相続税、所得税と比べても税率が高いため、必ず契約形態をチェックしましょう。

契約者と受取人が同じ

契約者と受取人が同一人物の場合は、一時所得または雑所得がかかります。夫の所得をもとに保険料を積み立てるため、夫に対する所得税が発生します。一時金は一時所得、年金払いは雑所得として扱われます。

例:契約者:夫 被保険者:妻、受取人:夫

親が子供のために生命保険を払ってる場合に起こるリスク

親が子供のためを思って、生命保険を支払っているとさまざまなリスクが生じます。ここでは、主だったリスクをいくつかご紹介します。

満期保険金や年金の受取時に贈与税が発生する

冒頭から説明しているように、実質の保険料負担者が両親、契約者が子のようにそれぞれ異なる場合、相続税ではなく贈与税扱いになります。贈与税は、相続税に比べて基礎控除額が低いうえに、税率が高いため注意が必要です。

生命保険料控除の対象外になる

生命保険料控除とは、納税者が生命保険料または個人年金保険料などを支払った際に、一定の所得控除を受けられる制度のことを言います。国税庁のホームページには、支払対象となる要件に「年金の受取人は、保険料若しくは掛金の払込みをする者、又はその配偶者となっている契約であること。」という記載があるため、実質の負担者ではない名義保険では生命保険料控除の対象外となります。

参照:No.1141 生命保険料控除の対象となる保険契約等

保険料負担者が死亡すると、相続税が発生する

保険料負担者が死亡し、その契約を引き継いだ場合、「生命保険契約に関する権利」として評価された金額が相続税の課税対象となる可能性があります。

生命保険の名義変更や解約における注意点

ここでは、生命保険の名義変更や解約における注意点についてお伝えします。

自己破産で解約をする場合

自己破産をすると、生活に必要最低限のものを除き、保有している財産は処分され債権者へ配当されます。破産者名義の保険でかつ解約返戻金付きの積立型保険は、処分対象になります。ただし、生命保険の契約継続の必要性が認められる、かつ解約返戻金が20万円以下では解約には至りません。なお、親や祖父母が負担になっている名義保険でも同様です。

また、自己破産直前の生命保険の名義変更は財産隠しにあたるため厳禁です。万が一発覚した場合、悪質と判断されて詐欺破産罪となります。10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金が課せられる恐れがあります。

親が負担者となっている保険契約を名義変更した場合

親(祖父母)が実質の保険料負担者になっている保険を名義変更すると、課税の扱いはどのようになるのでしょうか。結論から述べると贈与税は発生しません。生命保険はあくまで出口課税のため、被保険者の死亡または満期を迎えたタイミングで課税が発生します。

親が負担者となっている保険を解約できる?

生命保険を解約できるのは、あくまでも契約者です。親(祖父母)が契約者かつ保険料の負担者、被保険者が子どもという契約であれば、契約者である親(祖父母)が解約手続きをする必要があります。もし、契約者、被保険者が子どもで親(祖父母)が保険料だけ払っていれば、契約者は子供になるので解約する権利があります。ただし、その子供が未成年の場合、親権者の同意と下記書類が必要になります。

・親権者と続柄を確認できる書類(住民票、健康保険被保険者証、戸籍抄(謄)本など)

・親権者の印鑑証明書の原本

「名義保険」と指摘されないための対策

名義保険と指摘されないためには、贈与した・された痕跡を残しておくことが重要です。

受贈者の通帳・印鑑は受贈者自身が管理する

名義保険の問題点は、親や祖父母が代わりに保険料を支払ってしまうことにあります。名義保険と疑われないためには、まず受贈者自身が通帳と印鑑を管理します。

そのため、生前贈与をする際は、まず贈与者(親または祖父母)名義の預金口座から受贈者名義の預金口座に振り込んだのち、保険料を支払うようにしましょう。

国税庁も、下記の文言のとおり、保険料贈与を承認しています。

1. 被相続人の死亡又は生命保険契約の満期により保険金等を取得した場合、もしくは保険事故は発生していないが保険料の負担者が死亡した場合において、当該生命保険金又は当該生命保険契約に関する権利の課税に当たっては、それぞれ保険料の負担者からそれらを相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなして、相続税又は贈与税を課税することとしている(相法3(1)一、三、5)。

※生命保険金を受け取った者が保険料を負担している場合には、所得税(一時所得又は雑所得)が課税される。

2. 生命保険契約の締結にあたっては、生計を維持している父親等が契約者となり、被保険者は父親等、受取人は子供等としてその保険料の支払いは父親等が負担している、というのが通例である。このような場合には、保険料の支払いについて、父親等と子供等との間に贈与関係は生じないとして、相続税法の規定に基づき、保険事故発生時を課税時期としてとらえ、保険金を受け取った子供等に対して相続税又は贈与税を課税することとしている。

3.ところが、最近、保険料支払能力のない子供等を契約者および受取人とした生命保険契約を父親等が締結し、その支払保険料については、父親等が子供等に現金を贈与し、その現金を保険料の支払いに充てるという事例が見受けられるようになった。

4. この場合の支払保険料の負担者の判定については、過去の保険料の支払資金は父親等から贈与を受けた現金を充てていた旨、子供等(納税者)から主張があった場合は、事実関係を検討の上、例えば、(1)毎年の贈与契約書、(2)過去の贈与税申告書、(3)所得税の確定申告等における生命保険料控除の状況、(4)その他贈与の事実が認定できるものなどから贈与事実の心証が得られたものは、これを認めることとする。

参照:国税庁の事務連絡(1983年9月)

贈与のたびに贈与契約書を作成する

贈与には「連年贈与」と「定期贈与」があります。連年贈与とは、毎年少しずつ贈与していく贈与方法のことです。年間に受け取る金額が110万円以下であれば、贈与税が課税されません。つまり、一括で贈与せずに毎年110万円以下に分割して贈与すれば贈与税の節税が可能になります。

この連年贈与に非常に類似したものが定期贈与です。定期贈与は、あらかじめ毎年一定金額を贈与することを取り決めている贈与方法のことです。定期贈与は110万円以下であっても、定期金に関する権利を受けたものとみなされ、贈与総額に対して贈与税が課税さます。

定期贈与として認定される、生前贈与そのものを否認されることにならないよう、贈与のたびに贈与契約書を取り交わしましょう。贈与契約書には、定期的な贈与ではなく、あくまで一回限りの贈与である旨を記載します。また、贈与をする日は毎年同じ月日にするのではなく、少しずらした月日にすることをおすすめします。

また、贈与を受ける口座は普段使われているものを指定しましょう。ただの資金移動とみなされて生前贈与扱いされない可能性があります。現金手渡しではなく、必ず口座振り込みの方法を指定してください。

まとめ

名義保険になってしまうと課税逃れとして税務署の調査対象になる可能性があります。生命保険を使って生前贈与を検討する場合は、必ず贈与は口座をとおして、そして贈与記録をしっかり取るようにしましょう。

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監修者プロフィール

宮里 恵
(M・Mプランニング)

保育士、営業事務の仕事を経てファイナンシャルプランナーへ転身。
それから13年間、独身・子育て世代・定年後と、幅広い層から相談をいただいています。特に、主婦FPとして「等身大の目線でのアドバイス」が好評です。
個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っている他、お金の専門家としてテレビ取材なども受けています。人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

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