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名医の羅針盤

日本一患者数の多い小児科医 ~鈴木幹啓先生~

すべては患者のために ―― 地域に根ざし、子と親に寄り添った小児医療を提供

熊野川の河口に位置する、人口3万人に満たない和歌山県・新宮市。 ここに、1日平均200人、年間にしておよそ4万8千人の患者が訪れる、 日本でいちばん忙しいといわれる小児科医がいる。鈴木幹啓先生、45歳。小児医療にかけるその思いとは――。

友だちのような先生でありたい

34歳で「すずきこどもクリニック」を開院。 子どもの急な体調変化や平日は仕事で受診が難しい患者さんに対応するため土日も診療し、 独りで悩みを抱えがちな母親をサポートしたいとオンラインサロン <mama’s Doctor> を開設している。 子どもを遊ばせる場所がないとの声を聞けば私財を投じて公園を造るなど、 子どもの気持ちに寄り添い、親の目線に立った医療サービスを次々と打ち出している。

この土日は計373人の患者さんを診てますね。 やはり週末は多くなるんですよ。 一人当たりの診察時間は平均2.4分。 とにかく患者さんをお待たせしない工夫を至る所でしています。 例えば、当院では問診票を予約時に看護師が聞き取りして作成するんです。 その際、発熱や下痢といったすでに現れている症状のほか、 嘔吐や腹痛はないかなど出ていない症状も尋ねます。 ベテランの看護師が前もって重要な情報を集めておくことで、 より適切、迅速な診察につながります。 診療時間が短いのも決して手を抜いているわけではなく、 診察室に入ってきたときの親の表情や子どもの姿勢、同年齢の他児と比較したときの違いなどを瞬時に見極めた上で、 これまでの経験、病の流行状況などをあわせ、重症度や検査の要否を的確に判断しています。

注射は算数の問題やクイズを出して子どもの気をそらせながら打つ。 また、自身が3児の父親でもあるため、 小児科医として子どもに慣れているのとはまた違う近さ、距離感で向き合えるのだという。 開院して10年を迎えるが、鈴木先生を慕い、20歳を過ぎても受診する患者さんや往復3時間かけてやって来る親子など、 子ども・親双方から絶大な信頼を集める。

私は子どもと友だちになろうと思って接しているので、 向こうも友だちのように感じてくれるんじゃないでしょうか。 話題はかなり仕入れていますよ。 仮面ライダーひとつとっても、年齢が1歳違えば好みも変わりますから。 午前中来た子には朝放送しているテレビ番組の話をしたり、履いている靴のキャラクターを見て話題をふったり…。 気をつけているのは2回質問がかぶらないこと。見透かされてしまいますからね。 鉄板ネタは「好物当て」でしょうか。 「好きな食べ物当てたろか~? からあげちゃう?」というと「なんで分かったん⁉」と驚いた表情をしますよね。 からあげが嫌いな子なんてあまりいないんやけど(笑)。 誕生日を当てたりもしますよ。カルテに書いてありますから(笑)。 そうやって笑いながら診察した方がお互い楽しいですよね。

親の育児能力を見極める

子どもの病気と同様に「親の育児能力」も診ていると鈴木先生は語る。 特に発熱時の対応には注意が必要だ。 子どもが夜に高熱を出したとき、慌てる親は多い。 パニックになり、夜間の救急外来に駆けつける人もいるだろう。 しかし鈴木先生は、けいれんや意識障害など発熱以外の特異な症状がなければ、翌日の受診で十分間に合うと話す。

私のところに来る前に救急外来を受診してきたとします。 すると、この患者さんは発熱に対して心配症と分かりますよね。 風邪と診断して「熱が3日続いたら来てください」と言っても、 不安で翌日、中には当日の夕方に再診する方もいらっしゃいます。 この親御さんは熱に耐えられない、家で看るスキルがないと判断すると、 入院させてしまおうとなるわけですよ。 もちろん、親御さんが理由とは言いません。 お子さんの状態が良くないので、入院設備のある病院で治療しましょうと話をするわけですが、 これが悪の元凶で、次に同じ状況になったときに親御さんの許容範囲が変わっていなければ、また入院となります。 基本的に心配性の親御さんですから、今度は大学病院を紹介してほしいとなる。 ただの風邪で入院を勧める医者となれば見識を疑われてしまいます。 「ちょっと待ってください」と説得しにかかるのですが、 次に親御さんはどうするかというとドクターショッピング(※1)、もしくは直接大病院に行ってしまう。 まさに負のスパイラルです。そうならないよう、 納得していただけるまで丁寧な説明を心がけてはいますが。

高熱が出ると、風邪と初期症状が似ている「川崎病(※2)」を心配して受診するケースがある。 4歳以下の子どもに多い「川崎病」は年々増加傾向にあり、2018年には1万7,000人を超え過去最多となった。 特徴的な6つの症状(①高熱が続く②両目の結膜の充血③口唇が赤くなる・イチゴ舌④発疹⑤首のリンパ節の腫れ⑥手足のはれ・発赤と落屑(※3))があり、 このうち原則5つがそろえば「川崎病」と診断される。 言い換えれば、高熱や発疹のみの状態では診断を下せないということだ。 冠動脈に瘤(こぶ)ができるなど合併症の懸念があれば必要な検査を行い、 仮に「川崎病」だったとしても、診断後の対応で問題ないと鈴木先生は語る。 春になると来院が急増する「頻尿」も、 膀胱炎や糖尿病にかかっているケースはほとんどなく、精神的な要因だと鈴木先生はいう。 進級・進学をはじめ、春以外の季節でも運動会やお遊戯会、旅行などイベントの前後、 妹や弟ができたときなど環境の変化が子どもの許容量を超えるとよく見られる。 また、食物アレルギーを疑って受診することが多いじんましんも、 その多くは食べ物が原因ではないそうだ。

医師と患者は対等のパートナー

万一手遅れになったらと思うと、親は先走った行動を取りがちだ。 特に今年は新型コロナウイルスの流行があり、不安を感じる親は多いだろう。 医療情報が溢れかえる中、不要な受診や過剰な治療を避けるためにも、 医者との上手な付き合い方、かかり方、正しい情報の見極め方はあるのだろうか。

新型コロナウイルスに関していえば、この地域でクラスターが発生したという情報はありません。 もちろん、心配という人は多いですよ。 ただ、和歌山県全体でPCR検査のキャパシティーは現在のところ1日300人*1しかありません。 症状があれば別ですが、ただ不安を解消するためだけに行政の枠を使うことはできませんので、 希望者には自費での検査をお勧めしています。 病院へのかかり方について気になるのは、 例えば「〇〇という薬を出してほしい」と言ってこられる親御さんがいるんですよ。 専門家の私としては、病態を考慮して違う薬を処方したくても、 決め打ちでこられると説得しきれない場合があります。 すると、うまく関われないですよね。 プロの指示に従えと上から言っているのではなく、 あくまでも対等のパートナーとして相談しながら適切な治療を受けていくのが理想の形だと思っています。 おそらくインターネットで調べて来られるのですが、 玉石混交ですからね、掲載されている情報は。 私が言うのもなんですが、医師が執筆、監修しているからといって鵜呑みにはしないでいただきたいんです。 とくにアトピー性皮膚炎など治りにくい病気に関しては誤った内容が書かれている、 特殊な治療法に誘導するサイトも多いのです。 もし気になる情報が載っていたら「この薬をください」ではなく 「こういう記事を読んだのですが専門家としてどう思いますか」と意見を求めていただければ、お答えすることができます。

安心して任せられるのが名医

誰しも名医に診てもらいたい。わが子なら、なおさらだ。果たして鈴木先生の考える名医とは。


患者さんが受診して良かったと、安心して帰宅できるのが名医だと考えていますし、 それこそが私の診療ポリシーでもあります。 心がけているのは「たぶん」や「思います」といった患者さんの不安を煽る言葉を使わないこと。 自信をもって言えるときは必ず言い切ります。 言い切るのはリスクがありますから、医師としてはやらないのが普通なんですよ。 でも、私には50万人診てきたという自負がある。 膨大なデータ、経験の蓄積があれば、 おのずと会話力やコミュニケーション能力、診断スキルは高まっていきます。 「大丈夫」「同じような症状の子は何人もいますよ」と一言添えることで患者さんの不安が払拭されるのなら、 しないという選択肢はありませんよね。

鈴木先生は「熱が3日続いたら来てください」「今までと違う症状が出たら受診を」など、 再診の目安が書かれたシールを渡すようにしている。 基準を明快・明確に伝えることで、 不安におびえながら看病することがないようにとの配慮からだ。

わずかな差に気づく“かかりつけ医”

高い再診率は地域性も関係しているという。

さまざまな病院を転々とすると、病状の移り変わりを把握できません。 その点、この地域はかかりつけ医として初診から終診まで来てくれる患者さんが多いので、 病態に沿ったきめ細かな治療ができます。 子どもはしばしば演技しますからね。それを見抜けるのはいつもの姿を知っているから。 それに親御さんの性格を分かっていると、論理的に説明しないと不安を解消できないと判断すれば詳細に秩序立てて話しますし、 ざっくり理解したい方であればそのように対応します。 ずっと通ってくれるからこそ可能であって、一期一会ではできません。
一方、文部科学省が2020年10月22日に公表した問題行動・不登校調査*2によると、 2019年度に不登校が理由で小中学校を30日以上欠席した児童・生徒は18万人を超え、過去最多を更新した。 増加は7年連続しており、不登校の主な原因は「無気力、不安」が最も多い。

年齢が上がるにつれ、メンタル面の不調を訴える子どもが増えてきます。 小児科医になって20年になりますが、昔よりも確実に多くなってきていると感じます。 今年はコロナ禍の影響もあり、さらに増えました。 そうした子どもを診断するとき、判断材料となるのは普段の状態との差異なんですよ。 小さい頃から知っている子なら、前はこんな雰囲気じゃなかったと異変に気づきやすいものです。 実際、親御さんより先に感じ取ることもあります。 身体的な不調も同様で、いつもと違うわずかな差に気づけるかどうかがポイント。 だからこそ、そばで経過をよく知るかかりつけ医の存在が大事なんです。

3世代が憩える公園をオープン

まちの頼れる小児科医として多忙な日々を送る傍ら、 高齢者介護施設、公園、カフェなどが立ち並ぶ「海賊公園スクエア」をオープン。 運営する「株式会社やさしさ」の代表取締役を務める。

釣り仲間が高齢化してきて、彼らに安心して余生を過ごしてほしいとの思いから高齢者介護施設を建てました。 建物の周りが寂しかったので何とかしたいと考えていた頃、 親御さんたちから「子どもを遊ばせる場所がない」との悩みを聞いたんです。 それなら3世代が憩える場所を作ってしまおうと「海賊公園」を作りました。 公園にはアスレチックエリアに芝生広場、 道路を挟んだ向かいには「遊びと絵本 うみねこ」があり、疲れたときや天気が悪い日はここでくつろげます。 医師の仕事だけでも忙しいのにと、周りからもずいぶん心配されました。 でも、こればっかりは「性格」かな。 動いていないと死んでまう、みたいな(笑)。 これいいなあと思ったら、新しいアイデアがどんどん勝手に湧いてきて、 飯を食うのも忘れて没頭してしまうんです。

いかに良いものを作るかということに関して終わりはない、 とも語る鈴木先生。小児科医として今後、どのような展望を抱いているのだろうか。

オンライン化を図っていこうと考えています。 来院するために支度をして子どもに服を着させて…となると、行き帰りも含めて2時間仕事でしょう。 負担に感じる患者さんは多いと思います。 オンラインで対応できないと判断すれば、来院を呼びかければいいだけですから。 患者ニーズに応えるためにも、早急に取り組んでいきたいですね。

すべては患者さんのために――患者ファーストにしてファストでもある鈴木先生の忙しい日々は、まだまだ続きそうだ。 *1 11月2日時点 *2 正式名称は「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」

理解が深まる医療用語解説

(*1)ドクターショッピング

かかる病院や医者を次々に代えて診断を受けること。 患者さんの診療情報などが蓄積されず、適切な治療を受けられないデメリットがある。

(*2)川崎病

1967年に小児科医の川崎富作氏が最初に報告した原因不明の病気。 世界的にも川崎病と呼ばれている。

(*3)落屑(らくせつ)

表皮の角層が顕著に剥離する状態。

プロフィール

すずきこどもクリニック 院長 鈴木 幹啓(すずき・みきひろ) 2001年3月 自治医科大学卒業 三重大学小児科入局 2001年5月 三重県立総合医療センター(小児一般病棟、新生児集中治療室、小児救急担当) 2003年4月 国立病院機構三重中央医療センター(新生児集中治療室担当) 2003年10月 国立病院機構三重病院(小児急性期病棟、アレルギー・糖尿病・腎臓病慢性期病棟、重症心身障害児病棟担当) 2004年4月 紀南病院(小児科医長) 2006年4月 山田赤十字病院(小児一般病棟、新生児集中治療室、小児救急担当) 2007年4月 紀南病院(小児科医長) 2010年5月 34歳で和歌山県新宮市に「すずきこどもクリニック」を開院 三重県伊勢市出身。趣味は釣り。

取材先

今回はこちらを訪れました! すずきこどもクリニック 〒647-0042 和歌山県新宮市下田2丁目3-2 TEL 0735-28-0111 https://suzukikodomo.jp/

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